第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
名を呼ばれてマヤは、その潤んだ琥珀色の瞳を空の白からリヴァイの青灰色の瞳に向ける。
……あぁ、すごく綺麗だわ…。
朝焼けの美しさに感嘆していたマヤだったが、今はすぐ近くにあるリヴァイの瞳に映る色に魅せられてしまう。
夜の空のような青灰色の瞳に朝の白い光が反射して、すべてを映す水面のようにきらきらと美しい。
「マヤ…」
リヴァイの薄いくちびるからもう一度ささやかれた自身の名前に、今度は応える。
「兵長…」
ささやき合う響きに呼応するかのように、琥珀と青灰が近づく。もう溶け合うくらいに互いの瞳が近づいたならば、リヴァイは抱きしめている腕にさらに力をこめずにはいられなかった。
だがマヤの背中は少し本気で抱きしめただけで壊れてしまいそうに華奢だった。
……壊しちまう…。
刹那そんな想いが頭をよぎるが、目の前の琥珀色の瞳は夜明けの光を集めて輝いている。その潤いはこのまま抱く腕に力をこめてもかまわないと叫んでいるようにリヴァイには思えた。
吐息がかかるほどに寄せられた顔。
もうこの先はふれるしかないところまできて、リヴァイは顔をすっと外した。そしてマヤの耳元で熱っぽくささやいた。
「……綺麗だ」
その低い声が艶めいていて、マヤの胸はトクンと跳ねる。
「……兵長、私…」
何を言えばいいか、抱きしめられたままどうすればいいか、マヤには何もかもがわからなくて。
でもいつの間にかリヴァイのくちびるはもう、すぐ目の前にある。きっと1ミリでも動けば重なってしまいそうな距離。
どうすればいいかわからなくても、この先どうなるかは不思議とわかっていた。
だからマヤは、そっと目を閉じた。
緊張でまぶたもくちびるもふるふると震えているのが自分でもよくわかる。
それが恥ずかしくてギュッと閉じた目に力をこめたその瞬間に、ふわっとやわらかい感触がくちびるに舞い下りた。
………!
初めての感覚に驚きと羞恥でいっぱいになって身動きできない。
やわらかくて、軽くふれただけの口づけが何秒つづいただろうか。
「……んっ、ふっ」
息苦しくなったマヤのくちびるから吐息が漏れた。