第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
互いの熱をつないでいる手の一点に意識は集中して凝縮している。そして身体の奥深いところでは滾る感情の炎が燃え盛っている。それなのにリヴァイもマヤも剥き出しの感情と欲望のまま見つめ合うことはせずに、ただ正面の東の空をならんで見つめている。
二人とも本能のようなもので理解していたのだ。
今見つめ合えば、視線を絡ませれば、求め合う気持ちを抑えることができないと。
ますます朝霧は晴れていく。今やはっきりと白みを帯びてきていることがわかる東の空が、一秒また一秒と黄みの強い桃の赤さを連想させる東雲色に染まりゆく。
もう誰が見ても、夜ではなく朝に近い。
朝焼けが目の前に広がる大きな森を照らし始めた。まだ顔を出してはいない太陽の圧倒的な光の強さが、まだ残っている朝霧を追い払う。
その美しい光景に心を奪われる。一瞬でも目を離せば、もう二度と見ることのできない夜明けのイリュージョン。
東雲色の空が強く白み始めた。いよいよ陽が昇る。まだ姿を現さない太陽の先達として、金色の光の矢がまばゆく天空を射している。
「……綺麗…」
とうとうマヤが心の感動を声にしてしまう。
その声を聞いた瞬間にリヴァイは反射的にマヤの手を取り、抱き寄せてしまった。
………!
その突発的な行為に驚いて、大きな琥珀色の瞳を真ん丸にしているマヤ。
「この景色を知ってる…」
抱き寄せたマヤの肩に顔をうずめてリヴァイはささやいた。
「ずっとこうしたかった。マヤと一緒に夜明けの空を眺めて…」
耳元でささやかれるリヴァイの低い声。今までで一番近い距離のそれは、どこか苦しげで切なくマヤの胸を締めつける。
「兵長…、私も今思っていました。少しずつ光が集まってくるこの空の白い空気を一緒に吸って、一緒に朝を感じられたらどうなっちゃうんだろうって…」
その言葉をマヤが言い終わるか終わらないかのうちに、リヴァイは抱きすくめていた腕をゆるめた。
のぞきこんだマヤの顔は、夜明けの神々しい光に照らされてやけにまぶしい。
「マヤ…」
リヴァイは吸い寄せられるように愛おしい名をつぶやき、切れ長の目を細めた。