第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「いつか一緒に行くか…」
「はい…!」
マヤの声が弾む。
「楽しみにしています。……あっ」
頬に風を感じて、顔を見合わせる。
夜明けが近づいてきたのだろうか。夜霧が立ちこめ凪いでいた森の上を、暁の風が吹き始めた。
リヴァイとマヤの目の前で、刻々と景色が変わっていく。
「……霧が晴れてきましたね」
「夜明けが近い…」
少しずつ濃かった霧が薄くなり、暁風が森の葉を揺らしている。
いつしか月も星も来たるべく朝に、空というステージを譲るかのように遠のいている。
「そうですね。向こうの空が少しだけ明るいような」
わずかだがマヤが指さす東の空の色が、夜霧から朝霧へとその名を変えるのにふさわしく白み始めた。
じきに朝が来る。
リヴァイは東の空から目が離せない。
そのうちその圧倒的な神々しい光とともに姿を現す太陽を待ちわびる。
いつの日だったか、朝焼けに吸いこまれそうになりながら強く願った。
“いつかマヤと一緒に眺めてぇ、朝の空を。一緒にこの白い空気を吸って、それから…”
……あぁ、そうか。あのとき夢想したのは今このときだったんだな…。
明確なビジョンで理想の未来を描いていたことを思い出したリヴァイは、マヤの手をあらためて握り直した。
ふわりと包みこんでいたリヴァイの手が俊敏な動きで自身の手を捕らえたことに、マヤはびくっと反応する。反応はするが、何も言えない。
思えばずっと手がふれている。
ただ重ねただけであったり、強く握られたり、優しく包みこんだり。形は色々だが、つなぎっぱなしだ。
そのことにマヤはとっくに気づいている。
恥ずかしくて手を離したい気持ちもあるのだが、それよりもっとずっと手をつないでいたい、ふれていたい、体温を感じていたい気持ちの方が上回る。
だから何も言わず、手をどけることもせずに、リヴァイに握られるがままになっている。