第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
ひどく悲しい気持ちになってきて、その大きな琥珀色の瞳には涙が浮かんでくるし、ぐずぐずと鼻もすすり始めた。
「マヤ…? 泣いているのか?」
慌てたのはリヴァイだ。
マヤに逢いたくてここに来た。美しい夜の景色でも二人で眺めようかと思えば、広がっていたのは夏の夜霧。だがそれも、自身の過去を話すきっかけとなり、二人の絆は深められた。
重ねられた手が熱くて、狂おしい。
このまま抱きすくめようかと煩悩と戦っているうちに、マヤが口にしたキス魔薬なるふざけた薬のせいで、つい熱くなってしまった。
……絶対にマヤにハンジの作った媚薬のたぐいは飲ませねぇ。
その強い想いだけをぶつけて、言葉も掴んでいる手にも力が入ってしまった。
気づけばマヤは涙声。肩も震えている。
「泣いてません…! ただ… 痛いです、手が…」
ハッとして感情のままに掴んでいた手をゆるめる。
「すまねぇ」
「私…、嬉しかったんです。兵長が入団する前のことを話してくれて」
こぼれ落ちそうになっていた涙をなんとかこらえて、マヤはつづける。
「それなのに…、兵長は怒ってるし…。ごめんなさい…」
「謝らなくていい、怒ってねぇから…。ただちょっと心配になっただけだ。マヤにはハンジの作る怪しげな薬を飲んでほしくねぇから」
鼻をすすっているマヤの手をぽんぽんと優しく叩く。
「悪かったな、きつく言いすぎた。手もつい力が入っちまって…」
「大丈夫です…」
思いがけないリヴァイの優しい声と手が、泣きそうになっていたマヤの心を少しずつ落ち着かせる。
「兵長…」
「なんだ」
「いつか地下街に行ってみたいです」
「………!」
その申し出に驚いて思わず顔を見れば、半泣きで鼻を赤くしたマヤがふんわりと笑っていた。