第13章 さやかな月の夜に
「へ? へい… ちょうですか?」
「そそ、兵長」
「兵長がどうかしたんですか?」
「いやだから! リヴァイのこと好きかい?」
「ハンジさんは兵長が好きなんですか?」
「もう~~! そうじゃなくってぇぇぇ!」
噛み合わない会話にハンジが猛烈に頭をかきむしっていると、マヤがリヴァイの方を向いた。
「……兵長…」
リヴァイも黙って、マヤの方を向く。
「私… 兵長… あなたのことが…」
マヤはゆっくりと左手を伸ばす。
「……あなたのことが… わかりません… 」
マヤの手がリヴァイの右頬にそっとふれた。
リヴァイの顔色ははたから見ると全く変わりはなく、ただ単にいつもどおりの不機嫌そうな様子にしか見えなかったが、正面から覗きこんでいるマヤの瞳にはかすかに揺らめくリヴァイの瞳が映っている。
「……兵長… どうして… 」
マヤの顔がぐにゃっとゆがんだかと思うと、その大きな瞳からぽろぽろと涙がこぼれた。
「どうして…」
リヴァイの頬から手を離したマヤは、両手で顔を覆ってうつむいてしまった。小刻みに肩が震えしゃくり上げている。
「あぁぁぁぁ! リヴァイがマヤを泣かせたー!!!」
「あぁ? 何を見てやがった。こいつが勝手に泣いたんだろうが」
マヤの肩に手を置きながら、ハンジが言い返す。
「はぁ? なんだか訳ありぽかったじゃん。まさかもう手を出してるとか?」
「……削がれてぇのか」
ハンジはベーっとリヴァイに舌を出すと、腕の中でひっくひっくと泣いているマヤに優しく声をかける。
「どうしたんだい? リヴァイに何かされたのかい?」
マヤはハンジさん… 違うんです… とすすり泣いていたが、そのまま泣き疲れて眠ってしまった。
腕の中ですやすやと寝ているマヤの頭を、ハンジはぽんぽんと叩いた。
「リヴァイ、結局マヤはなんで泣いたんだい?」
「知るか」
ハンジはミケがほくそ笑んでいることに気づいた。
「あれ~ ミケ! 何か知ってるのかい?」
「いいや」
「なんだい! 退屈な男どもの退屈な答えだね~!」