第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
………!
見上げてくるマヤの顔が愛らしくて、リヴァイの胸はドクンと跳ねる。掴んでいる手も、ますます熱い。
「そうだな…」
そうひとこと漏らすのが精一杯だ。
……今なんて言った?
惚れ薬なんか飲まなくても、ちゃんと想ってますから…だと?
見上げてくる顔も、言っていることも、何もかもが可愛くて暴走しそうになる。
……やべぇな。
手から伝わる互いの体温を意識して、そこにマヤの愛おしい笑顔が重なって、もうこのままどうにかしてしまいたい。背後から腕をまわして抱きしめて、白いうなじに噛みついて。
……どうしようもねぇ俺の衝迫がマヤを壊したっていい。
そんなどす黒い欲求をなんとか堪えていると、マヤの明るい声が聞こえてくる。
「それにニファさんが言っていたけど、ハンジさんの薬の人体実験はモブリットさんが引き受けてるらしいです。だから私が飲むことは、そんなにはないと思いますよ? なので心配いらないです」
「………」
マヤへの衝動を抑えることに集中して、返事すらできない。
そんなリヴァイの様子に気づかずに、マヤは楽しそうに話をつづける。
「でもモブリットさんも本当にすごいですよね。いくら大好きなハンジさんのためとはいえ、いつも薬の試し飲みをするなんて。それも普通の薬じゃないですし。興奮剤を飲んだときは様子がおかしかったらしいですよ? おかしいってどんなのでしょうか? というか興奮剤ってよく考えたら…、何に興奮するのかな…?」
リヴァイに話しているつもりが、段々と自分の話の内容に疑問が湧いてきて首をかしげるマヤ。
「兵長、わかりますか?」
なんの邪気もないマヤの声を聞いていると、失われつつあった理性も戻ってきた。
「それは…、モブリットも男だからな、普通に考えたらわかるだろうが」
「……男…」
一言そうつぶやいて、パッと頬を赤らめるマヤ。
「あぁぁ、そうですよね…! うっかりしていました。やっぱり遊びとかスポーツとかそういうのじゃなくて男女の… ですよね…」
顔を赤くして焦っている様子が、これまた愛らしい。こんな純粋無垢なマヤを壊せやしない。