第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
リヴァイの顔を見ても、夜霧に煙る森を眺めているだけで何も言葉はない。
白く小さな横顔。細く美しい形の眉と切れ長の目には、さらさらとした前髪がかかっている。くせのない綺麗な鼻すじに薄いくちびる。
……どうして黙ってるの…?
先ほどまで多くを語っていたリヴァイが、急に何も言わなくなって。
ひんやりとした夜気のなかで、重なり合った手だけが熱い。
そこだけに意識が集中して、マヤは落ち着かなかった。
「……俺も経験がある」
何分経ったかわからないほどの時間を経て、やっとリヴァイが口をひらいた。
重なった手が溶けてしまいそうな錯覚におちいり、ぼうっと顔を火照らせていたマヤは、その言葉で我に返った。
「………?」
「一緒に飛んでいた鳥がいなくなったと思ったら、巨人が現れた」
鳥と巨人の話だとわかって、マヤは目を輝かせた。
「兵長もですか!?」
「あぁ、そのときは別に結びつけはしなかったがな…。だが言われてみればそうかもしれねぇ。鳥が人間より先に巨人を察知して逃げるなら、それを利用しない手はねぇ…。それにしてもよく気づいたな」
「最初の方は飛び去る鳥を見て、あれ?と思っただけだったんです。でも壁外調査に出るたびにそうだったから…」
「それは空の鳥ばかり見ていたってことになるな」
「そうなりますね…」
「ハッ、鳥が好きなマヤらしいな」
「ふふ」
リヴァイとマヤは微笑み合う。
「それはそうと… やたらハンジに気に入られているが、気をつけろよ」
「何がですか? 私もハンジさんを気に入っているから大丈夫ですよ?」
ハンジの実験台にさせられるのではないかとマヤを心配するリヴァイであるのに、当のマヤはけろりとして笑っている。
「馬鹿言え、大丈夫なんかじゃねぇだろ。あいつの作った妙な薬を飲まされるかもしれねぇんだぞ」
「妙な薬って、自分の気持ちに素直になれる薬のことですか?」
「あぁ、そうだ」
「薬に頼らない方がいいとは思いますけど、勇気が出ないときに後押ししてくれるなら、いい薬なんじゃないかな…」
「本当に何もわかっていないんだな…」
少し怒ったような口調でリヴァイは、マヤの手にただ重ねていただけの自身の手に力をこめて、ぎゅっと握りしめた。