第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
苦しそうなリヴァイの視界に広がる白く深い霧。
それは七十二候でいえば8月17日から22日のころを表す蒙霧升降(ふかききりまとう)。高温多湿の大地が、近づいてくる秋の空気に冷やされて森林や水辺から深く濃い霧が立ちこめて神秘的な風景をつくりだす。夜霧は宵につれて濃くなり、明け方に向けてますます白く深く立ちこめていく。
あたりを覆い尽くしている蒙霧に自身の胸の内を重ねてリヴァイは苦しげな表情をしていたが、マヤの方に顔を向けたときには、おだやかなものに変わっていた。
「だがマヤが教えてくれた…、愛おしく想う気持ちとそれを守りつづけていく強さを。何も見えねぇと思っていた世界も、お前がいるだけでこんなにも変わると知った。霧の向こうに何があるか見えなくても、誰かの声が聞こえなくても…。言葉どおりの五里霧中でもお前のためなら確信をもって生きていけるんだ…」
リヴァイはそこまで話すと、その青灰色の瞳を霧のかかる夜空に向けた。
「マヤはあの星だ、俺にとっては…」
そう言われて見上げた空には、たちこめる霧に包まれたひとつの星が輝いていた。
「兵長…」
白い霧の向こうで凜と輝く明るい星がひとつ。
確かに何も見えない霧の中でもあの星さえともにあれば、強い想いで前に進める…、そんな美しい輝きだ。
「マヤは俺が守らねぇといけない光であると同時に、俺を霧の中から導いてくれる希望の光だ。ずっと俺のそばで輝いていろ…」
そうささやいてマヤをまっすぐに見つめてくるリヴァイの瞳には、強い愛情と信念の色が浮かんでいた。この先どんな困難があっても、マヤとともにあれば一緒に乗り越えることができるという確信も。
その想いをマヤは受け止めて、自身の想いを伝えようとリヴァイをまっすぐに見つめ返した。
「兵長こそ…、私にとっては光そのものです。強くて優しい、温かい光。今だって兵長が来てくれたから不安な気持ちもどこかに行ったし、兵長さえいてくれたら私は頑張れます、生きていけるんです…。だから私のそばにいてください…」
「あぁ、離れねぇ…」
手すりに置いていたマヤの手に、リヴァイが自身の手を重ねてきた。
「……あっ」
ふれてきた肌の熱さに驚いて、マヤは思わず声を漏らした。