第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
リヴァイは自身を気遣うマヤの声にハッとする。
「あぁ、なんでもねぇ…。その男がメシと、独りでも生き抜くための処世術と、喧嘩の仕方を授けてくれたがある日…、俺の前から姿を消した。生きていくためにろくでもねぇゴロツキになっていた俺にも、一人また一人と仲間みてぇなもんができて…」
食うために毎日ぎりぎりの生活をしていた日々。決して今自身の隣にいるマヤに胸を張って言えるようなものではない。
「ずっと俺たちはあがいていた。ろくな食いもんも医者もいねぇ空のないあの場所で…」
「あの…、兵長は地下街を出て調査兵団に入るまでは、一度も空を見たことがなかったのですか…?」
「いや…。街の外れに開発途中で放置された野原があって、そこからは空が見えた。鳥なんかはその穴から地下街に迷いこんじまったりしたものだ」
「鳥が…」
「あぁ、逃がしてやるのもそこからだった…」
リヴァイは一瞬遠く優しい目をしたが、すぐに翳る。
「その場所以外は空の見えねぇ忘れ去られた場所だ。地下街で生きるには先の見えねぇ焦燥感に四六時中駆られて、手探りでその日暮らしをしていくしかねぇ。そんなとき転機が訪れ調査兵団に入団したが、俺のせいで仲間は死んだ」
「………」
どう声をかければいいのか、マヤにはわからない。
目の前で過去を語るリヴァイの声は努めて感情をこめずに淡々としているが、言葉の端々に強い自責がほとばしっている。
「それから何人も何人も…、見殺しにしてきた仲間は数えきれねぇ。人類の自由のために自分の力を信じても、仲間を信じても…、いつも何が正解かもわからずに突き進むしかなかった。何も見えねぇんだ…、この霧のようにな」