第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
あぁ、世界から… 取り残されてしまう。
そんな感覚で呆然と夜霧に囚われていれば。
きぃ…。
どこか限りなく近い遠くで、蝶番のきしむ音がして身がすくむ。
だがすぐにブーツの音が響いて、マヤは誰が近づいてきたかを知った。
「……兵長、どうしてここへ?」
「……夜風にあたりにきた」
リヴァイはマヤの隣に立ち、森を眺めたが。
「……霧がすげぇな」
「私がここに来たときは晴れていて森が綺麗に見えていたのですが、さっきから急に霧が…。それまではここが高いからか、風もずっと吹いていたけど…」
マヤはすっと森の方へ顔を向けた。
その横顔が淋しげで、リヴァイは胸が締めつけられる。
「霧が立ちこめると風がやんで、色んな音が聞こえなくなっちゃった…」
リヴァイに言うというよりは、ただのつぶやき。
でもそれをリヴァイはもちろん拾い上げる。
「……何が聞こえてた?」
「この森の上を夜風が渡っていたんです。それで葉がまるでおしゃべりをしているみたいに、さわさわ言っていました。それからふくろうやサギが鳴いていて…、そうだ、すごいんです! 狼が遠吠えしていたの…!」
「それはすげぇな」
「でしょう? そのときは月も綺麗に見えていたから、まさに月に吠えるって感じで。でも霧が出てくると嘘のように、みんな鳴かなくなっちゃいました。そうしたらなんだか独りぼっちになった気がして…。変ですよね? 城にはみんながいるのに、独りきりだなんて…」
リヴァイは手すりにひじをついて聞いている。
「なんだろう? 怖いくらいです、そんなことを思うなんて。きっと…」
マヤも手すりにひじをついた。
「この白い景色が、そう思わせたのかな…。霧の向こうが見えなくて。何があるのか誰がいるのか、声も聞こえない。そんなの、すごく不安がこみあげてきて…。でももう大丈夫です、怖くありません。兵長が来てくれたから…」