第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
ぎゃー!
突如聞こえた大きな音。それは夜を切り裂く奇怪な声。
美しい夜の森を楽しんでいたマヤはぎょっとしたが、その声の正体を知っていたので怖がりはしなかった。
……あれはサギだわ。
夜行性の大きな鳥の鳴き声に、ハッと気持ちが引き締まる。
……ちゃんと見張っていなくちゃ。
でも夜中でも結構にぎやかね…。このあたりに巨人はいるのかな? あの広い森のどこかで眠っているのかしら? ふくろうの鳴き声も、狼の遠吠えも、サギのびっくりするような怪声も寝ている巨人には届かないのかな? もしそうなら、巨人はとんでもない寝ぼすけさんだわ…。
様々な森の夜の音にも気づかずにぐっすりと眠っている巨人を想像すると、マヤはなんだかおかしくなってきて一人でいるのも忘れて声を出して笑ってしまった。
「あはは…」
その笑い声が、目の前に広がっている大きな夜の森に吸いこまれるような気がして身震いする。
この高い尖塔の上でたった一人。下にはミケも、他の見張りの兵士たちもいる。城内には多勢の調査兵がいるのに、突然感じたこの広い世界にたった一人でいる感覚。
夜気がやけに冷たく感じられて、視界が定かでなくなってくる。
先ほどまで淡い月の光に白く照っていた広大な森を、いつの間にか発生した霧が覆い尽くして。
もうすぐ9月。
まだまだ日中は夏であっても、壁内から遠く離れた寂れた城跡では深い夜は気温が下がる。特によく晴れた日の夜はさらに冷えて、夜霧が地表を支配する。
霧に怯えたのか、動物たちの声がしない。風すら逃げたのか、奏でていた葉のささやきも途絶えてしまった。
にぎやかだと感じていた森が、孤独の静寂に包まれる。
……怖い…。
急に弱気になってきて、マヤは両腕で自身を抱いた。
腕にこめる力が強くなるのに呼応するように、霧は深くなる。
静かなる乳白色の世界が視界を侵食して、もう森も見ることができない。