第13章 さやかな月の夜に
「あんな… ですけどぉ」
「ん? あんなって?」
「すんすん…」
「あぁぁ! スンスンね!」
「誰よりも… 優しいんです…」
マヤはほとんど聞き取れないような小さな声を出したっきり、テーブルに伏せてしまった。
「……寝ちゃったか」
ハンジは腕組みをしながら、マヤの話をまとめ始めた。
「モブリットは優しくて健気に頑張ってるから好き、ラドクリフは優しくていい人で花が好きだから好き、エルヴィンはお菓子をくれるから好き、ミケは誰よりも優しいから好き…か」
「私の扱いが一番酷いな」
エルヴィンが楽しそうに笑っている。
「そうだね! でも頼れる団長だって言ってたから!」
ハンジはフォローを入れつつ、ん?と首を傾げた。
「あれ? 何か忘れてないかい?」
マヤがテーブルに突っ伏したことで視界がひらけると、奥の席には負のオーラを滲ませながら座っている男がひとり。
「あぁぁぁ! ごめーん、リヴァイ! 君のことを訊くのをすっかり忘れてたよ! 今からマヤを叩き起こして訊くからね!」
「……俺はいい」
「えぇぇぇ! なんでぇ!」
「興味ねぇ」
「ま~たまた強がっちゃって! 最初からひとことも漏らさないように集中してたくせにぃ!」
「………」
こめかみに青すじを立てつつも黙ってしまったリヴァイを愉快そうに見ながら、ハンジはこぶしで自身の胸をドンと叩いた。
「ちゃんとマヤがリヴァイのこと、どう思ってるか訊いてあげるから! 任せなさ~い!」
そしてマヤの肩を揺さぶった。
「マヤ! マヤ~!」
「う~ん…」
「お~い! 起きろぉぉぉ!」
「み~んな好きですよぉ…」
むにゃむにゃ言うばかりで起きそうにない。
ハンジはマヤの髪をガシッと掴み上げ耳を出すと、口を寄せすーっと大きく息を吸いこんだ。
「リヴァイーーーーーー!」
耳元でいきなり大声で叫ばれたマヤは、跳ね起きる。
「兵長!?」
やっと起きたマヤにハンジは満足そうだ。
「ふ~、やっと起きた! マヤ、リヴァイのことを訊くの忘れてたよ。リヴァイはどうだい?」
起きたはいいものの、自分の置かれている状況をよくわかっていない様子でぼーっとしている。