第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
ギータが入ってきた窓枠から顔を出してバルコニーを覗く。
「本当ね。見張るなら外に出た方がいいわね」
振り向いて北側の窓の横の小さな扉を見つめたが、利用せずにギータ同様に窓を乗り越えることに決めた。
「あの扉、使う人いるんすかね?」
ギータの疑問に笑って答える。
「昔はこの窓枠にもちゃんとガラスがはまっていただろうから、そのときは使っていたんじゃない?」
「あっ、そうか。そうですね」
マヤはすとんと窓からバルコニーに下り立ち、きょろきょろと様子を見ている。
そこは人がすれ違うことのできる程度の幅しかない、ざっと1メートル2~30センチくらいだろうか。その幅のまま周囲をぐるりと取り巻いており、尖塔の最上部に位置していることからもここが、見張りのためだけに造られたバルコニーだと推察される。
手すりは高さ1メートルほどで低めだ。
「私なんかにはちょうど良い高さだけど…」
石造りの手すりに手をかけて真下を覗いてマヤはつぶやく。
「分隊長とか背の高い人には低いよね、この手すりは…」
マヤの視線の先にはミケが立っている。
「……かもですね。オレでもちょっと下手したら、バランス崩して落ちるんじゃないかと思いました」
「だよね…」
相槌を打ちながら、一周してみる。
南の窓枠の前に戻ってくると、ギータが直立不動で待っていた。
「あっ、ごめん! もう下りていいのよ? 交代です。疲れてるでしょう? ごめんね」
このような狭いバルコニーで、巨体のギータが一人で何時間も見張りをしていたのだ。一刻も早く塔から下りて部屋に戻って眠りたいに違いない。
マヤは申し訳なくて、二回も謝りながら手を合わせた。
「いえ! 大丈夫っす。ではオレ、行きます…」
ギータはぺこりと頭を下げてから螺旋階段へ向かいかけたが、立ち止まって振り向いた。
「マヤさん、くれぐれも気をつけてください」
「……ん?」
「あっ、いやぁ… なんか心配で。オレ残りましょうか? 一人より二人の方が気も紛れるし…」
「何言ってるのよ! 私は大丈夫。ほら、早く戻ってよく寝て? お疲れ様でした」
「お疲れ様です…」
ギータは再度お辞儀をすると、少しだけ名残惜しそうな顔をしてから今度こそ姿を消した。