第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
持ち場に近づけば、すぐにダニエルが駆け寄ってきた。
「分隊長、マヤさん!」
「ダニエル、交代だ。ギータは?」
「上っす」
そびえ立つ尖塔を見上げながら答える。
「そうか。マヤ、お前が行って交代してこい」
「了解です」
尖塔への入り口へ向かうと背後で、ダニエルの “お疲れ様っす、お先で~す” とあくび混じりの挨拶が聞こえた。
尖塔の中はタゾロの話どおりに螺旋階段が、ところどころ崩れている。
月明かりを頼りに一段また一段と上っていきながら、立体機動で一気に外から行けば楽だとタゾロが言っていたことを思い出した。
……楽かもしれないけど、こうやって歴史を感じさせる遺跡の塔を歩くのは素敵だわ。
そう思ったマヤだったが、すぐに思い直した。
……あぁでも、エリー城の歴史のことは全然知らないわ。どんなお城で、どんな人が城主だったんだろう…。
古びた石段を踏みしめて、想いを馳せる。
そうしてぐるぐると最上部まで行けば、小さな部屋にたどりついた。アーチ型の窓が東西南北に配置されていて、360度の周囲を遠くまで見通せる。そのうち東と南向きの窓が割れてしまったのかガラスが入っておらず、夜風が吹き抜けていた。
ここで見張りをしているはずのギータの姿が見当たらない。
「……ギータ?」
一抹の不安を感じて恐る恐るマヤが呼ぶと、
「マヤさん!?」
どこからか声が聞こえる。
「ギータ? どこなの?」
「ここっす!」
声とともに南の窓枠から、ギータのそばかすだらけの顔がぬっと現れた。
「え?」
驚くマヤにかまわず、ギータはその大きな体でひょいと身軽に窓を飛び越えて入ってきた。
「ここ、窓の外にバルコニーがあって見張るのにちょうどいいんです」
「そうなの…!?」
よく見れば北側の窓の横には、かがまなければ通れない小さな扉があって、尖塔の外側を360度ぐるりと取り囲んでいる小さなバルコニーに出られるようになっていた。