第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
だからリヴァイはハンジを無視して廊下を進み、角を曲がって階段を下りた。
リヴァイが消えた廊下をしばらく眺めていたハンジは、口をへの字に曲げて肩をすくめた。
「さてと、エルヴィンに突撃するか!」
仕切り直しとばかりに少し大きな声で自身に活を入れると、団長室に向かうべく、くるりときびすを返した。
一方リヴァイは、ハンジの情報に従って、まっすぐ図書室へ向かった。
今ごろの時間は皆が食堂に集っていて、図書室への道のりは閑散としている。
誰にも会わずにたどりつき、そっと扉を開けてみれば。
やはりハンジの言ったとおりにマヤがいるのだろう。ランプには灯がともされている。
そして聞こえてきた愛らしい声。
「……あなたがさがしているように想いもあなたを…」
……見つけた。
すぐに声をかけて狭いソファの隣に座る。
何を読んでいたのかと聞きながらも、ちらちらとマヤの顔をうかがって。
とにかく本当のことが知りたかった。
マヤが媚薬を飲むつもりだったのかどうかを。
こういうことは単刀直入に訊くのが一番だ。
……まわりくどいのは性に合わねぇ。
だからストレートに探りを入れたならば、途端に顔を赤らめるマヤ。
その反応にまさか、もしかしたらそうなのかと一瞬焦ったが、やはりマヤは媚薬だとは認識していないようだった。
マヤはこう言った、“自分の気持ちに素直になれる魔法の薬” と。
そうして一生懸命に言葉を選びながら伝えてくれたマヤの想い。
それは生々しい肉欲でもなんでもなく、ささやかな日々をともに過ごすことで感じる、幸せな愛情の想いそのものだった。それこそがリヴァイが想う今のマヤ。
……やっぱりそうだよな…。マヤが媚薬を飲みたがるはずがねぇじゃないか。クソメガネの野郎、何が “男も女も行き着くところはムフフ” だ!
思い返してもムカついてくる。
……あいつ、マヤが媚薬と理解していないとわかったうえで、面白がってわざと俺に話を仕向けてきやがったな。