第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
自身の言葉に酔いしれているハンジの顔。通常ならば蹴り倒してやりたいところだが、今のリヴァイはそれどころではなかった。
……マヤがビャクタケの薬を飲みたいと自分から言っただと…?
ビャクタケの薬…、媚薬をか?
ハンジはどんな薬か説明したと言っている。だからどんな作用の薬か理解した上で飲みたいと申し出たことになるが…。
……信じられねぇ。
あのマヤが?
純で、うぶで…。
リヴァイが描いている清純なマヤのイメージを、遠慮のないハンジの声が粉々に打ち砕いていく。
「良かったねぇ、リヴァイ! 本当はすぐにでも取って食いたいところが惚れた弱みで手を出せずにいるだろう? それがこの先ずっとつづくはずだった。それがマヤの方から積極的なんだからさ、言うことなしだね!」
にたにたしながらハンジは高速で移動してきたかと思うと、立ちすくんでいるリヴァイの脇腹を小突いた。
「よっ、色男! 憎いね、こんちくしょう!」
言われ放題小突かれ放題のリヴァイだったが、激怒することもなく静かな声で反論した。
「……勘違いじゃねぇのか。マヤがてめぇの怪しい薬なんか飲みたがる訳ねぇだろうが」
「チッチッチッ、女心をわかってないねぇ!」
人さし指を立てて左右に振るハンジはどこまでも憎たらしい。
「どうせリヴァイはマヤのことをいつまでもピュアな少女で、汚したらいけないとでも思っているんだろうけど。考えてもごらんよ、調査兵として立派に戦ってる一人前の女なんだ。つきあうってことはそういうことだろ? 男も女も行き着くところはムフフなんだってば!」
「………」
黙っているリヴァイの肩をばんばん叩いて、ハンジは上機嫌だ。いまだかつて、こんなにもリヴァイに接触して無事でいられたことなどあっただろうか。
「何も遠慮することないと思うよ? マヤだってリヴァイが望んでいる生々しい関係に無意識のうちになりたがってるからこそ秘薬を飲む気になったんじゃないかな。確かに君たちはつきあってからまだ日が浅いけど、恋のパッションにつきあっている時間の長い短いは関係ない。ただ照れみたいなものはあるだろうから、そこをちょこっと後押しするのがビャクタケの媚薬ってことさ!」