第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「さっき中庭でマヤに会ったんだ。ちょうど捜していたところでね、なんで捜していたかというと明日の壁外調査の巨人捕獲班のことでね…。ほら今回は捕獲班の編成がないだろう? それはなぜかと…」
リヴァイの殺気をまとったどす黒いオーラを察知したハンジは、言いかけた巨人捕獲の話を途中でやめた。
「また脱線するところだった。わかってるって! マヤのことだけ知りたいんだろう? やれやれ」
何がやれやれだとイライラするリヴァイだったが、ここは我慢。
……すべてはマヤのため。
「捜していたマヤが中庭のベンチに座っていたから、すぐさま駆けつけたよ。そして誠心誠意謝罪したさ」
「……謝罪?」
「そう、謝罪。せっかく明日は待ちに待った壁外調査だというのに、私がビャクタケに夢中になりすぎたせいで生け捕り作戦を申請し忘れたからね。もう謝るしかないだろう?」
「そうだな…」
本当は巨人捕獲班の編成申請忘れのことも、ハンジの謝罪もどうでもいいのだが、一刻も早くマヤの話をさせるためにここは無難に同意しておく。
リヴァイの同意に気を良くしたハンジは嬉々として。
「謝った私に怒ることもなく優しいマヤは、完成間近の新薬について興味を持ったみたいでね。だからどんな薬か懇切丁寧に説明したんだ。そしてその薬さえ完成すれば壁外調査で巨人の生け捕りもやりたい放題だとね! 真剣に話を聞いていたマヤの目の色が変わった。一体なんだと思う?」
ここでハンジはごくりと唾を飲みこみ、もったいをつけてから叫んだ。
「リヴァイ、マヤがビャクタケの薬をぜひ飲みたいと申し出てくれたんだ! いや~、願ったり叶ったりだよ。薬が完成した暁にはいつものモブリットではなく、つきあいたてホヤホヤのリヴァイかマヤのどちらか…、いやもちろん両方だって大歓迎だよ? とにかく君たちに飲んでもらいたいというか、でもどうせ拒否するだろうからどうやって騙そうか画策しなければいけないなぁと思っていたところに、まさかのマヤからの申し出だ! そのときの私の興奮がわかるかい? 脳汁が飛び散り危うく華奢なマヤを抱き潰しそうになったよ。あぁ、滾るとはこのことだね!」