第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「いや、俺はいい」
「そうかい? まぁいいや、大丈夫。リヴァイが来てくれなくても立派にエルヴィンを説き伏せてみせるから! 新薬の研究開発の許可をもらうときも最初は難色を示していたんだ、エルヴィンは。でも見事説得に成功した。だから今回の栽培大計画だってなんの心配も要らない」
「俺はクソキノコの栽培の心配なんかしてねぇがな…」
「やだねぇ、クソキノコだなんてさ! なんでもかんでもクソをつければいいと思っているその安易な考えは改めた方がいいと思うよ、リヴァイ。大体君は私のことだって、クソメガネクソメガネの連発ばかりでさぁ! 少しは工夫したらどうだい。それに引き換えマヤは “うっかりさん” ときたもんだ。あぁ! やっぱりマヤは天使のように可愛いねぇ!」
………!
やっとハンジの口から飛び出てきたマヤという言葉に、ビャクタケの長話にいい加減うんざりしていたリヴァイの眼が鋭く光る。
……うっかりさんだとか天使だとか…、相変わらず何を言っているのかよくわからねぇが、やっとマヤの名が出てきた。このチャンスを逃す訳にはいかねぇ。逃せばまた、延々とマヤとは関係のねぇクソキノコの話を聞かされるに違いない。
「おい、さっきから長々と話しているクソキノコとマヤは、なんの関係がある? とっておきの話とは一体なんだ?」
「リヴァイはせっかちだねぇ? 今まで君をそう思ったことは別になかった気がするが、やっぱマヤが絡んでくると気が急くんだろうね。まだまだこれからが壮大なビャクタケSTORYの始まりで、いかにしてビャクタケを早朝の限られた時間内に効率よく採集したのかとか、媚薬成分の抽出方法の詳しい説明とか、モブリットの描くビャクタケの解説画がどれだけうまいのかとか数えきれないくらいの…」
「おい! いいからとっととマヤの話をしろ!」
「はいはい、わかったよ!」
ものすごい剣幕のリヴァイに話をさえぎられたハンジは、両肩をすくめて観念したかのように話し始めた。