第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
リヴァイの視線など物ともせずに、ハンジは話をつづけた。
「リヴァイに立体機動装置の使用許可申請書を受理してもらってから私とモブリットは、連日連夜ビャクタケの調査と採集、新薬の開発に身を捧げたよ。調査の結果ビャクタケは、最初の発見箇所だけではなく広範囲に生息していることがわかったんだ。薬のために採りつづけても当面のあいだはなくなってしまうことはないだろう。だが数あるものがいずれ無くなるのは天地自然の理。しばらくは持ち堪えても採り尽くしてしまうだろうね。だから私は栽培を考えているんだ。キノコだから野菜と違って少々コツがいると思うけど、そのあたりはキノコの専門家にでも話を聞いて、ばっちりノウハウを伝授してもらえばいい。あとはあれだね、森のどのあたりを栽培場所にするかだ。やはり調査兵団である以上はあの森は立体機動訓練の用途に使われるのが最優先だ。訓練に差し支えがあってはならない。だからそこを考慮してキノコの栽培にふさわしい温度と湿度と日光条件の地面であり、なおかつ上空を飛ぶ兵士に全く支障のない場所を選別しなければならないから、まだまだ先は長いんだけど…ってちょっとリヴァイ、聞いてるかい?」
「……は?」
媚薬の材料のビャクタケがマヤと関係があるというものだからリヴァイは渋々聞いてやっているというのに、栽培計画の話になってきた。それでも我慢して黙っていたのに “聞いているのか” と念を押されれば、不機嫌な声が漏れてしまうのも当然だろう。
「は? じゃないよ! 調査兵団の資金不足解消のために私は提案しているんだよ? そもそもリヴァイがレイモンド卿の恋路を邪魔しなければ資金源で苦労することはこの先なかったんだからね!」
「………」
それを言われると耳が痛い。
リヴァイが何も言い返さないのをいいことに、ハンジはまたとうとうと話し始めた。
「……で、どこまで話したっけ? あぁ栽培計画のところか。一応ビャクタケを採集しながら、モブリットと二人で栽培場所の目星をつけたんだけどね、いくらなんでも勝手に訓練場でキノコ栽培を始めるのは具合が悪いと思って、今からエルヴィンに相談するところなんだ。薬の完成もすぐそこまで来ているし、その報告も兼ねてね。リヴァイも来るかい?」