第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
ハンジの声が脳内で再生されると同時に、忌々しいやり取りも鮮明に思い出された。
トロスト区から帰ってきてエルヴィンに報告を終え、団長室から出たところでハンジに捕まった。
「リヴァイ、帰ってたんだ。お疲れ!」
「あぁ…」
やけに機嫌のいいハンジの様子が気になったが、
……まぁこいつは普段からこんな感じでやたらハイテンションだからな。
と思い直して自身の執務室に帰ろうとすれば、ハンジの声が廊下に響き渡った。
「とっておきの話があるんだけど聞いていかないかい?」
……こういうときの “とっておき” は大体ろくなもんじゃねぇ。
「……別に興味ねぇ」
相手にしないのが一番と執務室のドアノブに手をかけた途端に聞こえてきたハンジの次の言葉は。
「あれ~、そんなこと言っていいのかな? 可愛い可愛いマヤに関することだけど?」
「………」
リヴァイの動作がピタリと止まった。
「どうしようかなぁ? 教えようかな? 教えないでおくってのもありだね。迷っちゃうよ。リヴァイはどう思う?」
「……は?」
とっておきの話があるから聞けと言ったのはてめぇだろうが! と、内心でリヴァイは苛立ちが芽生える。
「あっ、リヴァイは興味がないんだったね! これは失敬!」
わざとらしい声を出してハンジはリヴァイにくるりと背を向けると、団長室に入ろうとする。
「おい、待て…」
「うん? 何か用かい? 私はエルヴィンに用があるんだけど。リヴァイは私には用はないはずだよねぇ?」
意地の悪い笑みを浮かべたうえに眼鏡をキラリと光らせて、ハンジはせせら笑っている。
軽く殺意すら覚えてリヴァイは叫んだ。
「いいからてめぇの言う “とっておきの話” とやらをさっさと教えろ!」
「おぉ怖!」
ハンジは大げさに身震いしてみせてから、茶目っ気のある声で話し始めた。
「仕方がないなぁ、教えてあげるよ! リヴァイ、憶えているかい? 立体機動訓練の森で私が見つけたキノコのことを…」
「……あぁ…」
先ほどハンジは “マヤに関するとっておきの話” だと言った。
……マヤとクソメガネの媚薬の材料のキノコと、なんの関係があるってぇんだ。
嫌な予感がする。
リヴァイはその本能のままに、ハンジを疑り深く睨みつけた。