第13章 さやかな月の夜に
「モブリット! 何を赤くなってんだい?」
ハンジはモブリットの肩をバンバン叩く。
「あっ いやぁ、マヤは酔ってますから!」
「酔ってるからこそ、普段は口にできない心の奥底の素直な気持ちが出てきてるんじゃないかい!?」
もっともらしいハンジの言葉に、その場は静まり返ってしまった。
その様子に、離れたテーブルにいるラドクリフ第三分隊長と副長のアーチボルドも何事かとこちらを見ている。
一瞬の静寂と緊張を破ったのは、マヤの無邪気な声だった。
「モブリットさんもハンジさんも、ラドクリフ分隊長もアーチボルドさんも、皆さんだ~い好きです~」
「え? マヤ、みんなが好きなのかい?」
「はい そうですよ~。エルヴィン団長もミケ分隊長も、み~んな大好き」
ニコニコしながら無邪気にみんなが好きだと繰り返すマヤに、さすがのハンジもこれは、酔っ払いの戯言だと認めざるを得なかった。
「なぁーんだ、みんなが好きなのか。マヤ、私が知りたかったのは、そういうのとはちょっと違うんだけどなぁ!」
「そういうのってぇ?」
マヤの呂律も随分と怪しくなってきた。
「マヤ… みんなが好きって言うけど、みんなのどこが好きなんだい? それぞれ “好き” が違うだろ? どの “好き”が 本当の “好き” か考えてあげよう」
ハンジのその言葉に、マヤは一生懸命話し始めた。
「えっとですねぇ、モブリットさんは優しいです~。ハンジさんに無茶振りされても健気に頑張ってます~」
「マヤ~! お前いいやつだな…」
モブリットはマヤの言葉に涙ぐんでいたが、次の言葉に凍りついた。
「だから~ モブリットさんのそういうとこ好きなんですけど、でもね… モブリットさんはハンジさんが好きなんですよ~」
あははは!とハンジが一笑に付すのと、モブリットが “分隊長! 酔っ払いの言うことですから!” と叫ぶのが同時だった。
「女子はみーんな知ってますよ? モブリットさんはハンジさんが好き…」
「マヤ! もういい黙って!」
慌てふためいてモブリットが叫ぶ。
「あれ? いいんですかぁ? じゃあラドクリフ分隊長はぁ…」
「うんうん、ラドクリフはどこが好きなんだい?」
ハンジが目を輝かす。