第13章 さやかな月の夜に
「ほぉ~! マヤはモブリットが好きなのか!」
喜ぶハンジを押しのけて、モブリットがマヤの顔を覗きこむ。
「マヤ、冗談はやめるんだ。分隊長が勘違いするだろ」
マヤは突然目の前に現れたモブリットに驚き、とろんとしていた目を精一杯見開いた。
「モブリットさん! こんばんは!」
「はい、こんばんは… じゃなくって! 分隊長! 一体どれだけ飲ませたんです!?」
「ん? 大した量じゃないよ。まだ半分残ってるし!」
ハンジは酒瓶を高々と掲げた。
それはダブルマグナムボトルと呼ばれるサイズで、通常の葡萄酒の四倍はある大きな酒瓶だった。
「……それ全部 マヤが一人で?」
モブリットが青ざめる。
「やだなぁ。たかだか葡萄酒二本分じゃないか!」
モブリットはハンジから酒瓶を取り上げると、グラスに注ぎグイっと飲んだ。
「これ… 口当たりがいいから飲みやすいけど、結構アルコール度数高めですよ!?」
「あははは、そうだった… かな?」
右斜め上を見ながらハンジがうそぶいたとき、意外な場所から刺すような声が飛んできた。
「飲ませすぎだろ、クソメガネ」
「リヴァイ~! やっぱり気になってたんだねぇ!」
目を輝かせるハンジを、リヴァイは不愉快そうに一瞥した。
「いつ話に加わってくれるか、ずっと待ってたんだよぉ!」
「あ?」
「だってさぁ、リヴァイも気になってるんだろ? マヤが誰を好きなのか!」
「………」
黙ってしまったリヴァイに意地悪い笑みを向けたハンジは、葡萄酒をちびちびと飲んでいるマヤの肩を掴んだ。
「マヤ! モブリットが好きってことでいいね?」
マヤはハンジとモブリットの顔を交互に眺めていたが、ハンジも思わずドキリとするような笑顔になったかと思うとモブリットの瞳を正面からとらえた。
「はい、私はモブリットさんが好きです」
「うぉぉぉぉ! きたぁぁぁ!」
ハンジが雄叫びを上げ、モブリットは顔を赤らめてしまった。
ハンジの声に何か真剣な話をしていたらしいエルヴィンとミケも、こちらを見ている。
思わず立ち上がって奇声を発していたハンジがふとリヴァイの方を見ると、グラスを持ったままうつむいた顔は漆黒の髪に隠され、顔色をうかがうことはできなかった。