第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「そんなささやかな日常の出来事がすごく幸せで、ずっとつづけばいいなって…。でも明日壁外で、たった一瞬で…、なにもかも巨人に奪われるかもしれない。それはすごく、すごく怖くて…。だから兵長には、兵長への私の想いを知ってもらいたかったんです」
見上げてくるマヤの瞳は、おぼろげな図書室のランプの灯でゆらめいている。
「マヤ…」
リヴァイは潤いに満ちた琥珀色の瞳を見つめ返しながら、伝えてくれた想いに自身の想いを重ねていく。
「俺も想っている、お前との時間がこのまま永遠につづけばいいと…。だから何も恐れるな。壁外でも壁内でも、どこにいてもマヤは俺が守るから」
そうささやきながらリヴァイは、自然と自分でも気づかぬうちにマヤの方に手を伸ばしたが、マヤの手を握ることはできなかった。
なぜならマヤの両手には詩集の “ふわり” が大事そうに握られている。
リヴァイは行き先を失った手を引き下げた。
「壁外調査から帰ってきたら、二人でどこかへ行くか」
「本当ですか…!?」
嬉しそうに声を弾ませたマヤがリヴァイの方に身を乗り出したので、かすかに触れていた脚が完全に密着した。
「あっ…、すみません…」
慌てて姿勢を正してリヴァイから少し距離を取ってから喜びの声を上げた。
「二人で出かけるなんて嬉しい…! まるでデートみたいです!」
「……みたいじゃねぇだろうが」
リヴァイのそのひとことが嬉しくて、恥ずかしさで赤かった顔が今や、最上級の喜びで上気している。
そんなマヤの薔薇色の頬を見つめていたリヴァイは、実は心の中でほっと安堵のため息をついていたのだ。
……マヤが俺の想うマヤで良かった。あいつ…、絶対わざとだな…!
安心したらハンジへの怒りがふつふつと湧いてきた。
リヴァイの脳内に、けたけたと笑っていたハンジの声が響く。
“リヴァイ、マヤがビャクタケの薬をぜひ飲みたいと申し出てくれたんだ!”