第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「マヤの想い…?」
「はい…」
……どう伝えたらいいの? この想い。
ハンジさんの作った薬があれば素直になって、想いを伝えることができる。
ううん、薬なんか飲まなくたって今ここで、隣に座る兵長に自分の言葉で言うのよ、マヤ。
「ハンジさんから新薬の開発をしていると聞いたので、お手伝いをするって言ったんです。なにか助手みたいなことができたらいいなと思ったから。そうしたらハンジさんは薬が完成したら飲んでみてほしいと…。薬を飲むなんて考えてもなかったのでどんな薬なのかと訊いたら、“自分の気持ちに素直になれる魔法の薬” だって…」
そこまで話すと、だんだんと恥ずかしく思う気持ちが強くなってきた。
ちらりと横のリヴァイを見れば、その表情には何も表れていなくて、このままこの話をつづけていいものかとマヤは不安になってくる。
……でも話すしかない、話さないと。いや違う、話したいの!
「最初は断ったの、恥ずかしいから。でもハンジさんが言うんです、気持ちを伝えずにいたら絶対に後悔するって。ちょうど明日は壁外調査です。ハンジさんの魔法の薬はまだ完成していないから薬は飲めないけど…、薬に頼らなくても兵長に私の気持ちを知ってもらいたいから…」
思いきって身体ごとすぐ隣にいるリヴァイの方に向く。そろえた膝頭が、組んでいるリヴァイの脚にかすかにふれる。
「兵長とつきあうようになって気づいたの。つきあうっていっても前と変わらない生活です。朝起きて、ごはんを食べて、訓練して。お昼を食べて、訓練して、執務を手伝って。またごはんを食べて、お風呂に入って寝る。この繰り返しのなかに兵長と過ごす時間がある。なんでもないような些細なことでも嬉しいんです。たとえば…」
マヤはそれまで伏せていた目を上げて、リヴァイを見つめる。
「兵長が私の淹れた紅茶を飲んで美味しそうに目を細めてくれたとき。執務の途中でふっと顔を上げたら、執務机には兵長がいて真剣な顔で書類を読んでいる。そのまなざしを盗み見して、また私は自分の執務に戻るんです。……すごく幸せだなぁって思って」
やわらかく笑うマヤの顔がまぶしくて、リヴァイの胸はドクンと跳ねた。