第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「それはちょっと… うっかりさんでしたね。でも、巨人の生け捕りは今回はできないかもしれないけど、新薬の研究ははかどったんですよね? じゃあ成果はあったということでいいんじゃないですか…?」
“明日が壁外調査になっていた” なんてとんちんかんなことを言うハンジを可愛いと思いながら、マヤは精一杯なぐさめる。
「おお! そうだね! 確かに秘薬の完成はもう目に見えている。あと一押しのところまで来ているんだ。それはこの数日間の地獄の追いこみの成果に他ならない。あの薬さえ完成してがっぽがっぽと稼げれば、巨人の生け捕りだけを目的とした壁外調査だって実現可能かもしれない! ありがとうマヤ、なんだかやる気が出てきたよ。それにひどく嬉しい」
「嬉しい?」
「あぁ。私のことを “うっかりさん” だなんて愛らしく素敵に呼んでくれる人間は私のまわりにはいなかったからね。リヴァイは口をひらけば “クソメガネ” 連発だし、モブリット以下一同誰もが口をそろえて “風呂に入れ” だの、“巨人バカ” だの、ろくな呼び方をしない。うっかりさんか~! マヤにこんな風に呼んでもらえるなら、申請し忘れも悪くなかったかもね」
白い歯を見せて笑うハンジは、もう過去の自分に苛立ってはいない。
“風呂に入れ” はニックネームではないのではないかとマヤは思ったが、あえて指摘はしなかった。
「さてと、明日の壁外調査は巨人の捕獲はなし! だけど全力で挑もうじゃないか! なんだかやる気が出てきたぞ。これもマヤのおかげだ! さぁ!」
すっかり元気を取り戻したハンジは勢いよく立ち上がった。
「秘薬の完成まで、もうひと踏ん張りするか。モブリットはどこに行ったかな?」
「あの…、何かお手伝いしましょうか…?」
夕食も風呂も済んでいる。リヴァイはいない。就寝までの時間は特にすることもなく、詩集でも読もうかと思っていたところだ。
どうせ暇なら、少しでも敬愛するハンジの役に立ちたいとマヤは手伝いを申し出てみた。