第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「だろ? 思い出したならいいんだ。あぁ、今すぐ時間を巻き戻してエルヴィンに巨人捕獲作戦を申請したい…! どうして私は申請しなかったんだ! うぅぅぅ…」
頭を抱えて呻いているハンジが段々気の毒になってくる。
「今から申請したら駄目なんですか? それか申請していなくても、捕獲作戦を実行するのは…?」
なんとかハンジの希望を叶えてあげたいと、マヤは声をかけてみるが即座に粉砕された。
「それが駄目なんだ。リヴァイが今日駐屯兵団に提出した計画表に記載されていない作戦は実行できない。壁外で突発的な事象に遭遇したときに限って対処することは許されるから、“仕方なく” 巨人を生け捕りにすることはできるけど、巨人運搬用の荷馬車がないから運べない。申請していない作戦のために荷馬車は用意できないからね」
「……なるほど。申請していない作戦だから、突発的な事象に遭遇時の緊急手段と見せかけて巨人を首尾よく捕獲できたとしても、運ぶ荷馬車が用意されていないから持って帰ることができない… ということですね?」
「そういうこと。運搬用の荷馬車は捕獲作戦を申請して許可が下りてから初めて壁外調査編成に組まれるから」
ハンジは握りこぶしを作って、どんと自身の膝を叩いてからつづける。
「だから…! あらかじめエルヴィンに申請しておかなければならなかったのに! あぁ、私は過去の私をこのこぶしで殴ってやりたい!」
マヤはふっと疑問が浮かんだ。
「ハンジさんが巨人の生け捕りのことを忘れるなんてめずらしいですね? 何かあったんですか?」
「……実は想定外の材料が手に入ってね…、寝る間も惜しんで新薬の研究に没頭していたら…、気づいたら明日が壁外調査になっていたんだ!」