第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「せっかくレイモンド卿がマヤにこっぴどくフラれたにもかかわらず寄付金を大盤振舞してくれたのにさぁ、エルヴィンに捕獲班の申請をするのをすっかり忘れちゃって…。この私としたことが…! クッ…!」
捕獲作戦がメインイベントだと話していたときの満面の笑みから一転、この世の終わりのような顔をしている。
「ハンジさん…」
「あぁ、マヤ! どうか許してくれ。捕獲班の申請をしなかったこの愚かな私を。殴ってくれてもかまわない…!」
そう言うなりグイッと右頬を差し出すハンジ。
「ハンジさん、別に私は怒ってないですから…! それにレイさんをこっぴどくふったなんて…!」
「マヤが怒ってなくても私が私に怒っているんだ。あぁ! 時間を戻せたならば…!」
両手を上げて天を仰ぎ、芝居がかった口調でハンジは絶叫したあと、くるりとマヤの方に振り向き冷静な声で告げる。
「ところでマヤがレイモンド卿をこっぴどくフッたのは、まぎれもない事実だからね」
「そんなぁ…」
「まぁいいじゃないか。マヤがレイモンド卿よりリヴァイを選んだことで人類の明るい未来は約束されたも同然だし…」
「ちょっと待ってください」
ハンジの言葉をさえぎるマヤ。
「それはどういう意味ですか? 人類の明るい未来は約束されたも同然って…」
「あぁ、それはマヤがレイモンド卿と結婚したらリヴァイが失恋するだろう? そうなったら失意のリヴァイでは大幅な戦力ダウンで調査兵団全体の危機の到来だ。だがその逆…、マヤがリヴァイとつきあえば、リヴァイはしゃかりき千人力のフルパワー極限状態でばっさばっさと巨人をなぎ倒し、人類の明るい未来は約束されたようなものだよ。ほらエルヴィンだって言っていたじゃないか、“リヴァイを生かすも殺すも君次第” だって」
「……言ってましたね…」