第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「やぁ、マヤ!」
ザックに代わって今度はハンジが、ベンチのマヤの前に立つ。
「いや~、ちょうど捜してたんだよマヤを。会えて良かった!」
にかっと笑うとハンジは、マヤに誘われていないのに勝手に隣に座った。
「捜してた…? 私をですか?」
「うん、謝りたくてね」
「……えっ?」
謝ってもらう心当たりなど全くないマヤは心底驚いてしまって、横に座っているハンジの顔をまじまじと見つめた。
「私、何かハンジさんが怒ることをしました? あれ…、ハンジさんが謝る? じゃあ私が怒ってるんですか? あれ? なんかおかしくないですか?」
言っているうちに自分でもわからなくなってくる。
「あはは、何かしたとかではない。逆さ、“しなかった” んだ」
「………?」
ハンジの言葉でますます深まる謎。
「やだなぁ! そんな馬鹿みたいにポカンと口を開けちゃって」
「だってハンジさん、全然意味がわからないですよ?」
「そうかい? 簡単なことだよ。マヤ、考えてごらん? 明日はいよいよ壁外調査だ。なんかこう、物足りないというか心にぽっかり穴が空いたような虚しい気持ちになっているだろう?」
「………」
マヤは素直に言われたとおりに考えてみたが、物足りない気持ちにはなれない。つい先ほどザックの退団話から “人々の暮らしを守るために壁外調査に行くんだ” と、あらためて想いを強くしたばかりなのだ。
「ほら~! 壁外調査のメインイベントである巨人生け捕り大作戦が今回はないじゃないか!」
「あっ…」
巨人捕獲班の結成がメインイベントなのかとか、そもそもイベントなのかとか、大作戦なんてノリでいいのだろうかなど、色々とつっこみたい気持ちでいっぱいになるが、隣で大好きなハンジの顔が輝いているのを見ると何も言えなくなってしまう。