第13章 さやかな月の夜に
「マヤ!」
ぐいっと左肩を掴まれ振り向くと、ハンジが何やら途轍もなく大きな瓶を抱えて満面の笑みをたたえていた。
「マヤ、これだったら大丈夫! ほとんどジュースだから! 葡萄の味が濃くって美味しいんだよ~!」
ハンジがへらへらと笑いながら大きなジョッキグラスに葡萄酒を注げば、トクトクトクトクと心地良い音がした。
「ど~うぞ!」
ほとんどジュースというハンジの言葉に、マヤは試しに一口飲んでみる。
ハンジの説明どおりに葡萄の味が濃く、果実そのものを口に含み歯で噛み砕いた瞬間にほとばしる果汁をそのまま飲んでいるような感覚だった。
マヤはその美味しさに、歓喜の声を上げる。
「ハンジさん! 美味しいです、これ!」
「だろ?! はい、飲んで飲んで!」
トクトクトクトク。
「甘~い! みずみずしくって… ハンジさん、これ本当にお酒なの?」
「うん。でもほとんどジュースだから、気にしなくてオッケー!」
マヤは目を輝かす。
「こんなに美味しいお酒がこのお店にあったなんて知らなかったです。ペトラにも教えてあげなくっちゃ」
マヤが一口飲めばハンジが注ぐ勢いで、葡萄酒の瓶は軽くなっていく。
ハンジがマヤにどんどん酒を飲ませていることに、モブリットが気づいた。
「分隊長。そんな急ピッチで飲ませない方が…」
マヤにつきっきりで酒を注いでいたハンジは、己の副官の方を振り返ると眼鏡の奥をキラリと光らせた。
「……モブリット。これは “通過儀礼” だよ」
「………」
「あぁぁ~ 思い出すねぇ! モブリット、君の通過儀礼を! 確かあのときは…」
「分隊長! もういいですから!」
「あのときに比べたら、いや~、君も強くなったもんだねぇ! 今君をつぶそうとしたら、ここの酒蔵がつぶれちゃうかもね、ヒヒヒヒ!」