第13章 さやかな月の夜に
……気づかれてる!
マヤは心臓が止まりそうになったが、もうどうにでもなれと半ば自棄になった。
「兵長!」
緊張で声が裏返る。
「あの… あのですね…。どうして休憩時間に来なく…」
マヤがそこまで言いかけたとき、左隣のハンジがバシッと背中を叩いてきた。
「マヤ~!」
「はい?」
振り返ると、ハンジは上機嫌な様子でマヤのグラスに並々とエールを注いでいる。
「マヤはイケる口なの?」
「え?」
「ほら~、酒だよ酒!」
「あぁぁ うーん。少しなら…」
「少しって、どれくらいなのぉぉぉ!?」
「エールなら3杯は大丈夫です」
「ほ~ いいねぇ! ニファよりは強いじゃん! はい飲んで飲んで!」
マヤはハンジの迫力にたじろぎながら苦笑いする。
「いえ! そんな強くないですから…!」
「ん? 3杯は平気なんだよね?」
「はい…。というか今まで3杯までしか飲んだことなくって、そのときはちょっといい気分になったくらいで大丈夫だったんです」
「ふぅん、じゃあ今日は、もっと飲んでどうなるか知らなくっちゃね!」
マヤのグラスに酒を注ごうとするハンジ。
マヤはグラスに手でふたをしながら抵抗した。
「ハンジさん、駄目ですよ。酔っぱらって皆さんに迷惑かけたくないし、飲まないです!」
「なんだ~ 面白くないの~。マヤって真面目なんだねぇ!」
そう言って背中をバンバン叩いたと思ったら、急に立ち上がってどこかへ行ってしまった。
ふぅっと安堵のため息をつき、マヤは慌ててリヴァイの方に体を向けた。
リヴァイは先ほどと変わらない姿勢で、不機嫌そうに一人で酒を飲んでいる。
「あ… あの! 兵長が休憩の時間に来なくなったのは… どうしてですか?」
……言った!
マヤは思い切って質問できた自分を褒めてやりたい気持ちになり、妙な高揚感に包まれた。
リヴァイを見ると、微動だにせず何も変わった様子が見受けられない。全くマヤの声など届かなかったようだ。
……兵長?
あれ? 聞こえなかったのかな?
私の声、小さかった?
仕方がない… もう一度言わなくちゃ…。
マヤがそう思い再び口をひらきかけたとき、またもや邪魔が入った。