第13章 さやかな月の夜に
マヤもグラスを掲げエールを口にしようとしたとき、左隣の人物がカッチーン!と盛大にグラスをぶつけてきたので、エールが胸元にこぼれてしまった。
「ハンジさん!」
「はいカンパーイ! 巨人にカンパーイ! 」
声を上げたマヤにかまわずハンジは背を向け、モブリットのグラスに突撃していた。
「……もう…」
グラスを置き濡れてしまった胸元を見下ろしていると、真っ白のハンカチがすっとマヤの視界に入ってきた。
驚いて顔を上げると、リヴァイが黙って差し出してくれたものだった。
「……あっ…」
受け取って良いものかどうかわからずまごまごしているマヤに、低い声がひとこと。
「使え」
「あっ でも、汚しちゃ悪いですから…」
「……いいから」
その声が不機嫌そうで、でもそのくせどこか優しくて。
「ありがとうございます…」
マヤはリヴァイの白いハンカチを受け取ると、胸元に軽く押し当てた。
真っ白なパリッとしたハンカチの角は、エールの水気を吸いマヤの白い手の中でやわらかくなっていく。
拭き終えたマヤが頭を下げる。
「ありがとうございました。洗って返しますから…」
マヤがすべてを言い終えないうちに、リヴァイは いやいい…とつぶやくとマヤの手からハンカチをそっと取り上げた。
「すみません…」
マヤは恐縮して身を縮こめていたが、ふと向かいに座っているミケが合図を送ってきているのに気づいた。
……分隊長… 何?
拳で胸元を叩いたと思ったら、兵長の方を指さす。
執務室での会話が、マヤの頭の中で繰り返された。
「だから今度、リヴァイに会ったら訊いてみろ」
「……何を?」
「決まってるじゃないか、どうして来なくなったのか訊くのさ」
……やっぱりそんなこと、訊けない…!
マヤはそう思い頭をぶんぶんと振ったが、ミケはしつこく合図を繰り返し、さらにはそのジェスチャーがどんどん大きくなってくる。
ミケのもはや命令になってきた合図に背中を押されマヤがリヴァイの方に視線を向けると、思いきり不機嫌な様子で眉間に皺を寄せていた。
「おい てめぇ、さっきからミケと何を遊んでやがる」