第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
リヴァイとマヤは言い合いをしているのに、マーゴにはいちゃついているようにしか見えなかった。
……とうとうつきあったと聞いてはいたけど、これは本物だね! 可哀想にジムにはもう完全にマヤをあきらめてもらうしかないね。
可愛い甥っ子の失恋を不憫に思い、マーゴは目を閉じて首を大きく左右に振った。
「さぁさ、あたしゃこう見えて忙しいからね! 二人のいちゃいちゃにつきあってる暇はないんだよ」
「いちゃいちゃって、そんな…!」
「いちゃいちゃは、いちゃいちゃさ。そうだろ? 兵長」
赤面のマヤとしかめ面のリヴァイに片目をつぶって、マーゴは去っていった。
「あのおしゃべり女め…」
リヴァイは恨めしそうにマーゴの背中を見送った。
マヤは顔を赤くしたまま食事を再開している。
しばらくのあいだは気恥ずかしさから黙って食べていた二人だったが、マヤがつぶやいた。
「甘いのでも辛いのでも…、いつか一緒に飲めたらいいな…」
「そうだな…。いくらでも飲めばいい」
「いくらでもって…。酔っぱらってしまいますよ?」
「そのときは介抱してやる」
「本当に?」
「あぁ」
リヴァイとマヤは本人たちの自覚はないが、はたから見ればやはり確実に甘い会話を繰り広げながら、そしていつまでもその時間がつづけばいいとばかりにゆっくりと、ゆっくりと食事をするのであった。
ゆったりと流れた甘い時間も終わりを告げて。
二人はマヤの部屋の前で、名残惜しそうにたたずんでいる。
「……明日の朝は飛ぶんだったな」
「そうですね…。寝坊しないようにしなくちゃ」
「早起きは得意なんだろ?」
「そうなんですけど、たまには寝過ごすこともあるから。兵長は朝は強い方ですか?」
「早起きは苦じゃねぇ。いや…」
言いよどむリヴァイの顔を見上げるマヤ。
「……もともと眠りが浅いからな」
「それは良くないですね…。ちゃんと寝てほしいです。どうして眠りが浅いのですか?」
「習慣みてぇなもんだ」
……ガキのころから安心してぐっすりと眠ったことなど…。
なかったとは言わねぇ。
おぼろげに記憶の森に横たわるのは、美しかった母の腕の中で感じたぬくもり。まだ自身の名すら言えなかったころの優しい夢。