第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
……兵長、どうしたのかしら?
遠く儚い記憶に揺れている青灰色の瞳に、マヤが惹きつけられていると。
「お疲れ様で~す!」
元気いっぱいの声が飛んできた。振り返れば、廊下をやってくるのはペトラ。手には入浴セットをさげている。
リヴァイにぺこりとお辞儀をしてから、マヤに訊く。
「今帰ってきたんだ。随分とゆっくり食べたんだね?」
「うん」
「私は見てのとおり、お風呂に行ってきたよ。マヤも早く入ってきて。で、帰ってきたら教えて」
「あぁ… うん、わかった」
食堂でペトラが “あとで部屋に行くかも” と言っていたことを思い出す。
「……何か話があるの?」
「そうじゃないけど、色々と訊きたいこともあるしね」
意味ありげにマヤとリヴァイをちらちらと見てから、少し引き締まった顔をする。
「兵長、失礼します」
「あぁ、お疲れ」
リヴァイに頭を下げてからペトラは自室に帰っていった。
「隣だと、よく行き来するんだろうな」
「そうですね。新兵のころからずっとペトラとは一緒だから。そのうち部屋替えがあるかもしれないけど、できたらこのままがいいなぁって思ってます」
「そうか…」
リヴァイはまた少し、何か言いにくそうにしてから。
「ペトラ以外にも部屋に入ったりするのか?」
「いえ…。最初はペトラと同室だったアンネが、ペトラと一緒に遊びにきてましたが…」
その先は言わなくても調査兵なら誰でもわかる。含みを持たせた場合は壁外調査で散ったということ。
「だからそれ以来、ペトラしか入ったことはないんです」
マヤは段々と不思議に思う気持ちが強くなる。
……なんでそんなことを訊くのかしら?
「あの…、それが何か…?」
「いや、別に…。ペトラも待ってるし、風呂に行かねぇとな」
「あぁ、はい… そうですね、じゃあ… ここで失礼します」
つい習慣で背すじを伸ばしてから、きちんとお辞儀をしたマヤ。今にも敬礼もしそうな勢いだ。
「おい…、それなんとかならねぇか」
「……はい?」
「いや、なんでもねぇ。ゆっくり休め」
「……はい。お疲れ様でした」
マヤはやはり、リヴァイの言いたいことや気持ちに気づくことなく再度頭を下げてから部屋に入った。