第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「やっぱりあたしには花より山椒さ。庭に植えときゃ葉も実も料理に使えるし、便利だよ。ピリリと辛くて大好きなスパイスだね。クローブも好きだよ、庭には植わってないけどね。肉の臭み消しには最高さ。羊の肉なんかはクセが強いから、クローブなしでは作る気がしないよ。本当にいいスパイスだよ、クローブは。紅茶にも合うしね!」
マヤの顔がパッと明るくなる。
「あぁ、そうです! クローブはオレンジを浮かべてオレンジクローブティーにすると最高なんです。ねぇ兵長?」
大好きな紅茶の話だ。リヴァイについ話を振ってしまう。
「そうだな。クローブはグリューワインもいい」
「グリュ? ワイン?」
マヤの疑問にはマーゴが答えた。
「温葡萄酒…、いわゆるホットなワインのことだよ。赤ワインにクローブやジンジャー、八角などのスパイスとシロップを入れて火にかけるのさ。そうだろ、兵長?」
「あぁ。俺はシロップは入れない方が好みだがな…」
「だろうね! 兵長はブラックペッパー多めなんかがいいんじゃないかい?」
「そうだな」
リヴァイとマーゴがめずらしく親しげに会話していて、マヤは嬉しくなる。
「美味しそうですね、グリューワイン。私も飲んでみたいなぁ」
「マヤは初心者だからスパイスはクローブとシナモンだけで、あとはオレンジと蜂蜜をたっぷり入れた甘めのがいいだろうね」
とマーゴが言えば、リヴァイも。
「だな。初心者というよりお子様向けといったところだな」
「あはは。そうだね!」
腹を抱えて笑うマーゴにマヤは猛抗議した。
「ちょっとマーゴさん、お子様だなんてひどいです! 私だって大人向けのグリューワインを飲めます!」
「お子様と言ったのは兵長だよ? 文句なら兵長に言っとくれ」
「……そうでした」
マーゴの言い分を認めて、あらためてリヴァイをキッと睨む。
「兵長、私もブラックペッパーのきいた辛口のグリューワインがいいです。子供じゃないから」
「ガキが何を言ってるんだ。悪いことは言わねぇ、やめとけ」
「……ガキじゃないです! 大丈夫です!」
「そんなに言うならいつか飲もうじゃねぇか。ひとくち飲んで、蜂蜜を入れろと言って泣きついても知らねぇからな」
「泣かないから…!」
「ハッ、どうだか」