第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
この日の献立は肉料理だ。
淡白な鶏むね肉のソテーではあるが、料理人の腕が良いからだろう。しっかりと濃い味つけで兵士の皆の満足感が大きい一品であることに間違いはない。
リヴァイは自身も鶏肉を口に運びながら、ちらちらとマヤを気にしていた。
リヴァイの視線に気づかずに鶏むね肉をひとくち、またひとくちと口に運んでは美味しそうに目を細めている姿から目が離せない。
「……美味いか?」
「………!」
マヤは口に入っていた鶏肉をもぐもぐと噛んで飲みこんでから、慌てて答えた。
「ええ、とっても。淡白なお肉のはずなのに、ピリッとスパイスがきいていて美味しいです」
「ここの料理人は腕がいいからな。低予算でいつも美味い食事を提供してくれている」
「ほんと、そうですよね」
「嬉しいことを言ってくれるじゃないの!」
近づいてきたのは言わずと知れた料理人のマーゴ。
「マーゴさん!」
「気に入ったかい?」
「はい。ピリッとして美味しいです」
「あぁ、それはね…」
マーゴは得意そうに両手を腰に当てて仁王立ちだ。
「あたしの家の庭に生えている山椒だよ」
「サンショウ? 初めて聞きました 」
「そうさ、山椒。ここらへんの特産物だから、よそから来たんだったら知らないかもね。マヤ、出身は?」
「クロルバです」
「西だね、クローブが名産の。知ってたかい? クロルバの名はクローブからきてるって話じゃないか」
「え? そうなんですか? 兵長、ご存知でしたか?」
マヤは、マーゴが現れてから一言も発していないリヴァイに話を向けた。
「いや…」
「確かそうだったよ、あたしの師匠が言ってたからね」
「師匠?」
なんの師匠だろうとマヤは首をかしげた。
「やだよ、料理の師匠さ。山椒もその師匠がくれたんだ。庭に植えるなら花よりスパイスだってね」
「そうなんですね。お花もいいですけど、腕利きの料理人のマーゴさんのお庭にはスパイスがぴったりですね!」
「そうなんだよ!」
マーゴは嬉しそうにマヤの肩をばしっと叩いた。