第13章 さやかな月の夜に
「何をぼーっとしてるんだい? 早く座って座って~!」
ハンジはマヤの両肩に手を置き、そのまま強引に着席させた。
座ったものの、右隣のリヴァイはマヤを見向きもしない。
上官に対して無視する訳にはいかないので、マヤは恐る恐る頭を下げた。
「……兵長、お疲れ様です」
気怠そうに頬杖をついて視線を落としていたリヴァイは、その声で顔を上げた。
「何故お前がここにいる」
リヴァイの声は冷ややかで… そのまなざしの咎めるような厳しさに、マヤの心は凍りつき身体は緊張で硬くなる。
「あっ あの…、それは…」
マヤが口ごもっていると、リヴァイはさらに冷たい声を出す。
「ここには副長より上しかいないはずだが…?」
「………」
マヤが何も答えられず顔を赤くして下を向いていると、向かいの席からミケが助け舟を出した。
「リヴァイ、俺が呼んだんだ。マヤはよくやってくれているからな。今は補佐だが、副長みたいなもんだ」
思いがけず前から飛んできたミケの声に、リヴァイは顔をしかめた。
「おい、私情を挟むんじゃねぇ」
睨みつけるリヴァイに、ミケはニヤニヤしながら言い返す。
「ほぅ? 私情を挟んでるのはどっちだ?」
「あ?」
「まぁまぁまぁまぁ! そこまでそこまで~!」
ハンジの大声が男二人の声を、一瞬で消した。
「折角の楽しい酒の席なんだから~。リヴァイもそうカリカリしないでさ! 大勢いる方が楽しいじゃん! それにリヴァイもマヤが隣で嬉しいくせに~!」
「あぁ!?」
気色ばむリヴァイを見てハンジはイヒヒヒと笑い、
「エルヴィン! みんな揃ったよ!」
と、声をかけた。
ミケの隣に座っているエルヴィンは、先ほどから目の前で繰り広げられているリヴァイ、マヤ、ミケにハンジのやり取りを非常に興味深そうに眺めていたが、エールのグラスを右手に持ち乾杯の音頭を取った。
「二週間後に壁外調査が決定した。思うところは各自それぞれにあるだろうが、人類の前進のために団結しよう。今日は皆、存分に食べて飲んで英気を養ってくれ。乾杯!」
皆がグラスを掲げ、あちらこちらでカチンカチンと合わせる音が響いた。