第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「ヘルネの雑貨屋さんで一緒に買った白いハンカチ…」
「あぁ…、そのことか…」
「はい。詮索する気はないのですが…。でも気になっていました。あぁでもそれって詮索してますよね…。ごめんなさい…。でも!」
“でも” を三度も連発しながらマヤは、強い気持ちを持ってミケの顔を見つめた。
それは自分にいつも良くしてくれるミケ分隊長への感謝と敬愛の想い。
そしてミケにも幸せになってほしいという強い願い。
「分隊長には幸せになってほしいから」
「………」
自身を想ってくれるまっすぐな琥珀色の光にあてられて、ミケは何も言えなくなってしまった。
そして意識は執務机の引き出しの中へ。
引き出しの奥には、あの日買った雪のように白い絹のハンカチの包みがひっそりと眠っている。
「渡せましたか…? ハンカチ…」
ミケは答えに困っている。
渡したい相手など目の前にいるマヤ以外に他にいないのに。渡したと嘘は言えない。だからといって、渡していないと言えば心優しいマヤのことだ、心配するに違いない。
……ときには嘘も必要か…。
「あぁ、渡した」
「そうですか! 良かったぁ!」
ぱあっとマヤの顔が明るくなる。
「相手の方は喜んでましたか?」
「あぁ」
「じゃあ…」
マヤは “うまくいったんですね?” と言いかけたが、思いとどまる。
……あまり細かく訊くのは良くないよね…。分隊長の方から話してくれるのならいいけど…。
でも、これだけは知っておきたい。
分隊長の想い人がどこの誰だかも、恋の行方がどうなっているかもわからないけれど。
どうしてもこれだけは。
「幸せですか?」
唐突な質問だったかもしれない。
長い砂色の前髪の奥のミケの瞳が、一瞬だがわずかに大きくなった。
それは驚きなのかなんなのか、マヤにはきっと永遠にわからないであろう。
「あぁ、幸せだ」
「……そうですか。それを聞いて私も幸せです」
やわらかく微笑むマヤの顔に、ミケは釘づけになった。