第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「……は? マヤが俺のところに来るのは夕方の6時を過ぎている。そこから執務をするのに1時間か長くて2時間…。休憩なんかしていたら執務ができねぇだろうが」
リヴァイが顔をしかめればマヤも。
「そうですよ、紅茶を飲まないとしても休憩はできません。なんのためにお手伝いしているかわからなくなるわ」
「そうだな…。休憩はここでの一回限りが妥当だ」
リヴァイは声には出さなかったが、ミケにはセリフのつづきが聞こえる気がした。
“だからこれからも俺はここに、マヤの紅茶を飲みにやってくるからな”
……確かに定時を過ぎてからリヴァイの部屋へ行くから、休憩の余裕はないか。この先もリヴァイと三人でティータイムか…。
それも致し方ないとミケは渋々フンと鼻を鳴らして、同意を示した。
「マヤ、今日の茶葉だが…」
リヴァイとマヤが紅茶の話を始めた。
紅茶好きの二人が夢中になって紅茶の話をしているのを眺めながら、ミケは自身の内なる変化に気がついた。
先ほどまでは “邪魔者なのではないか” “お呼びじゃない” と疎外感のようなものを感じていたのだが、いざ目の前で二人が紅茶談義をしていると微笑ましくて。
このまま俺の部屋で二人が微笑み合うのを見守ってやるのも悪くないと。
そんな気分が、疎外感を押しつぶして消していく。
……この眺めが、この部屋の休憩なんだな。
こうしてミケのざわついた気持ちも、紅茶の香りとともにすっかり落ち着いた。
紅茶談義が終わったころには、紅茶もなくなった。
リヴァイはすっと立ち上がり、マヤの瞳をまっすぐに射抜く。
「あとでな」
トクンと跳ねた鼓動のままに、マヤの声は真っ正直に弾んだ。
「……はい!」
リヴァイは出ていき、部屋には嬉しさで頬を赤くしているマヤとミケが残された。