第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
……兵長の執務のお手伝い…!
マヤは思いがけないミケの提案に心が躍った。
リヴァイの執務室に手伝いに行かなくなってから随分時間が経っている気がする。
実際には大した日数ではないのだが、ひどく淋しくて。
……もしまた兵長のお手伝いができるなら、すごく嬉しい。
マヤは期待を心の中でいっぱいにふくらませて、リヴァイの反応を待った。
「なぁリヴァイ、どうだ?」
すぐには何も言わないリヴァイに、ミケはおだやかにもう一度訊いてみる。
「あぁ、そうだな…」
リヴァイはゆっくりとソファの端に座っているマヤの方を見ながら。
「また手伝ってもらおうか。くだらねぇ書類仕事が多すぎて、一人だと気が滅入る。マヤがいてくれると助かる」
「……はい!」
マヤの嬉しそうな笑顔に、“私情を絡めた異動話” で少々肩身の狭い思いをしていたリヴァイも、幸福そうに目を細めた。
二人の様子を見たミケは、さらに提案してみたが。
「マヤ、良かったな。執務の手伝いの復活ついでにリヴァイのところで紅茶を飲んだらどうだ?」
「え?」
マヤは一瞬ミケの提案の意味がわからなくて、変な顔をしたがすぐに。
「そんな何杯も飲めません。ここで飲んで兵長とも飲んだら、そのあと食堂に行くのにおなかがちゃぷちゃぷになっちゃいます」
「メシが食えねぇな」
「ねぇ、そうですよね」
リヴァイの同意にうなずくマヤ。
「いや、そうじゃなくて…」
ミケは考えをめぐらせた。
“俺と飲むよりリヴァイと飲んだ方がいいのじゃないか” とミケは言いかけたが、そうするとここでの休憩をやめてしまいそうだ。
……それは困る。
俺との休憩時間はこのままで。当然マヤの淹れた美味い紅茶は飲みたい。だがリヴァイが来ると邪魔者な気分になる。
そうか、ここにリヴァイが来なければいいんだ!
ミケは微妙に言いまわしを変えた。
「これからはリヴァイのところでも休憩すればいい。そのときに紅茶を飲むかどうかは二人で決めてくれ。だからリヴァイはもうわざわざ顔を出さなくてもいいぞ、ここに」