第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「……異動?」
マヤの声に戸惑いがにじみ、そして。
「あっ! ハンジさんですか?」
その言葉にリヴァイがぴくりと反応し、ミケはすかさず訊き返した。
「……ハンジ?」
ミケからすれば今、頭を占めていたのは私情でマヤをリヴァイ班に入れようとしたリヴァイであってハンジではなかったのだ。
「前にハンジさんが食堂で、分隊長に私を譲ってくれと言ったことがあったでしょう? その話ですか?」
「あぁ…、まぁそうだ」
最初は自身の異動の話だということに驚いていたマヤだが、すでに知っている件だとわかって目に見えてほっとした様子だ。
「……それで団長は…?」
あのとき食堂で “エルヴィン団長に分隊の配置換えを命じられたら従います” とハンジに答えたマヤは、当然エルヴィンがどう判断したのかが気になる。
「異動はない。これからも今のまま俺の班だ」
「そうですか…、良かった…」
思わず本音が漏れるマヤ。
だがすぐに執務室の妙な違和感に気づいて、つけ加えた。
「あっ、ハンジさんのところに行くのが嫌な訳ではないですよ? ただ分隊長のところにずっといるから、居心地が良くって…」
「そうか」
ミケの声はいたって普通だが、その鼻は嬉しさでひくついている。
その反面リヴァイは全く会話には加わらずに、ただただ眉間に皺を寄せていた。
「タゾロさんは信頼できる先輩ですし、新兵のギータたちも最近はどんどん調査兵らしく頼もしくなって…、あっ、でも」
「なんだ、どうした?」
「今日のお昼のときに、ジョニーとギータが変なことを言うから困っちゃいました」
「変なこと?」
「はい。私がリヴァイ班に行くんじゃないかって言うんです」
「「………!」」
思わず顔を見合わせてしまうリヴァイとミケ。
「ほう、リヴァイのところに…。一体なぜ?」
リヴァイのわずかな表情の変化を楽しみながら、ミケは訊いた。
「それはその…」
もともと薔薇色の頬がさらに恥ずかしそうに赤く染まって。
「私が兵長と、おつきあいすることになったから…」