第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
少々のブランクがあるのに、そんなことは全く気にもしていない様子でリヴァイはツカツカとソファに近づき、勝手にど真ん中に座った。
「よく来たな…」
部屋の主として何も言わないというのも変な気がして、ミケは仕方なく声をかけた。
「あぁ」
「………」
会話がつづくはずもなく、沈黙が訪れたが。
「お待たせしました」
紅茶を持って入ってきたマヤが、その気まずさを吹き飛ばしてくれた。
「兵長、いらしてたんですか」
「あぁ」
慣れた手つきで淹れてきた紅茶の準備をしながら、マヤとリヴァイは微笑み合う。
つきあい始めたからといって、特に何かが変わった訳ではないとミケは思っていたが、それは間違いだと知った。
……二人のあいだに流れる匂いが違う。
今までも幾度となく微笑み合ってはいたが、互いの秘めた想いが通じた今は、絡み合う視線が一瞬であっても熱くてとろけそうだ。
……マヤは、いつでもリヴァイの分の紅茶を淹れていたからな…。
美味しく紅茶を淹れるには茶葉を躍らせるジャンピングが重要で、そのためには一人分よりも二人分、二人分よりも三人分とたっぷりのお湯で淹れることがコツだとか言っていたが…。
ミケはそんなことは言い訳だと思っている。
……確かに美味い紅茶のためというのもあるんだろうが。本心はいつリヴァイが顔を出してもいいように心をこめて淹れていたに違いないんだ。
そうやって紅茶ひとつをとっても、リヴァイを想っていたマヤの恋心が成就した今となっては。
……やっぱり俺はお呼びじゃないな。だがここは俺の部屋だぞ…?
マヤが淹れた熱い紅茶をすすりながら、ミケが少々ふてくされていると。
「分隊長、会議はどうだったんですか?」
無邪気にマヤが訊いてきた。
急な会議があるからと、午後の訓練の指示を出してタゾロに任せたのだ。
会議というよりはリヴァイに呼びつけられたというのが正しいが。
「そうだな…。実はマヤのことを話し合っていたんだ」
黙っていることもできたが、ミケは少々意地の悪い気持ちでリヴァイの方を一瞥した。
「……えっ? 私… ですか?」
驚いて紅茶を持つ手が止まるマヤと、その隣で眉間に皺を寄せているリヴァイ。
「お前の異動のことでちょっとな…」