第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
団長室での臨時会議もといマヤをめぐってのリヴァイ、ミケ、ハンジの揉め事も無事に終わっての、午後の訓練の第二部の時間。
めでたく第一分隊第一班、通称ミケ班に残留となったマヤと、ミケは楽しく執務をこなしている。
“楽しく” といっても見かけ上は、特に変わったそぶりはない。
リヴァイにも負けず劣らず無表情の部類に入るミケだから、別段嬉しそうでもなんでもない。
だがきっとここにエルヴィンがいたならば、即座に見抜くに違いない。
ミケの鼻が時折幸せそうに蠢いてマヤの匂いを嗅いでは、無意識のうちに満ち足りた深い吐息をもらしていることを。
もうすぐ休憩の時間だ。
ミケはずっと気にかかっている。
……リヴァイは来るだろうか?
レイモンド卿主催の舞踏会から帰ってきてからは、マヤはリヴァイの執務の手伝いをしていない。
それはリヴァイが “もう執務の手伝いに来なくていい” と言ったからだったな。そしてその日から休憩の時間に紅茶を飲みにリヴァイは顔を見せなくなったし、レイモンド卿がマヤにプロポーズをするために毎日連れ出しに来ていたときは無論ここに顔を出すことは一度もなかった。マヤのいない休憩は、あいつにとって意味のないものだろうから。
結構な時間、休憩に来ていないことになるが。
リヴァイは来るだろうか?
紆余曲折の末にマヤとつきあうことになったリヴァイには、もうここで紅茶を飲む必要はないのかもしれない。
何もわざわざリヴァイにとって邪魔者でしかない俺のいる俺の執務室で、三人で紅茶を飲まなくても。
想いを通じたこれからは、いくらでも二人きりで紅茶を飲めばいい。
それこそリヴァイの執務の手伝いを再開して、リヴァイの執務室で紅茶を飲めばいいんだ、邪魔者の俺抜きで…。
「分隊長、紅茶を淹れてきますね?」
ミケの考え事は、マヤの涼やかな声で中断された。
「あぁ、そうだな。頼む」
にっこりと微笑んで給湯室に向かったマヤの残り香を楽しみながら、もう一度リヴァイが現れるかどうかを考察しようとしていたところへ扉がいきなりひらいて、リヴァイが入ってきた。
……考えるまでもなく、来やがった。