第13章 さやかな月の夜に
コンコン。
待ちに待ったノックの音に、マヤは扉に駆け寄った。
「待たせたな。行こうか」
背の高いミケのあとについて、居住棟を出る。
正門を出たあたりで、マヤは尋ねた。
「……いつですか? 壁外調査…」
一瞬ミケの歩調が緩んだ。
「ニ週間後だ」
「……そうですか…」
二人はその後、言葉を交わすことなく街に向かって歩きつづけた。
陽はすでに落ち、しかしまだ顔を出さぬ月を待ちわびるように残照が、あたりの景色を刻々と包む。赤い空はみるみるうちに紫色に染まり、やがて闇が色濃く世界を覆い始めた。
まっすぐ伸びる街道に落ちる影さえも、一秒一秒その濃さを変えていく。
街に二人が足を踏み入れるころには、街灯の光が闇の中でやわらかく瞬いていた。
広場に着き放射状に広がる道を、迷わず南へ行く。
打ち上げがおこなわれる “月夜亭” は、調査兵団御用達の居酒屋だった。
今宵のように会議のあとに打ち上げと称して大勢でなだれこむ場合もあるし、兵士各々が調整日に腹を満たし、ゆっくりと一杯を楽しむ場合もあった。
ミケが扉を開けると、喧噪が店を支配していた。ざわざわとした絶え間ない話し声の合間に甲高い女の笑い声が響いたかと思えば、怒鳴り散らす酔っぱらいの大きな声が耳に飛びこんでくる。
活気に満ちた店内をミケがぐるりと見渡すと、聞き覚えのある声に呼ばれた。
「ミケー! ここだよ! ここー!」
声のする方向へ歩き出したミケの背中に隠れる形でついていったマヤは、急に立ち止まった大きな背中にぶつかりそうになった。
顔だけ振り返ったミケは、マヤにささやいた。
「ハンジの隣に座るんだろ?」
「あっ、はい!」
ミケにうながされて彼の後ろからひょこっと顔を出したマヤに、すかさずハンジが手招きした。
「マヤはこっち!」
呼ばれていくと、確かにハンジの隣の奥の席が一つぽっかりと空いている。
しかしその空いている席の奥に座っているのは、立ち上がって腕を振りまわしていたハンジの陰に隠れて姿が見えなかったリヴァイ兵長だった。
………!
マヤが慌ててミケの方を振り向くと、ニヤニヤしながら突っ立っている。
マヤに座れと指で合図したミケは、テーブルの反対側に位置するエルヴィンの隣に向かった。