第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
いつも死と隣り合わせだ。
だからどんなときでも前向きに。そうでないと戦えない。しんみりとしていたのはほんの数秒で、ハンジは元気よく話をつづけた。
「とんでもないチビが来たと思ったけど、すぐに180度考えは変わった。あの飛び方とブレードの逆手を初めて見たときには、滾ったよねぇ!」
ハンジは興奮状態を維持した勢いそのままでエルヴィンに畳みかける。
「ところでプレゼンはリヴァイ棄権で私の不戦勝ってことでいいね? さぁエルヴィン、正式にマヤを私の分隊に配属すると命じてくれ」
エルヴィンからの人事異動の正式な言葉を受け止めるかのように、大きく両腕を広げたハンジだったが、肩透かしを食う羽目になる。
「では命じよう。マヤの配置転換はない」
「へ?」
受け止めるものがなくなった両腕を振りまわしてハンジは抗議する。
「なんで? さっきの私の力説をちゃんと聞いてた?」
「あぁ、聞いてたさ。すべてを勘案してのことだ。ミケ、異議はあるか?」
「異議なし」
「ちょっと! ミケの意見なんか聞いてないよ。マヤはミケのとこにいるより私のとこに来た方がいいって!」
じっとハンジを見つめていたエルヴィンだったが、ひとつ大きくうなずくとにっこりと笑った。
「……わかった。マヤは第二分隊に異動だ」
あっけなく自身の意見が通り目を白黒させたが、次の瞬間ハンジは歓喜の声を上げた。
「いやっほ~! さすがエルヴィン! 話がわかるね! さっきのはアレかな、ちょっとした小芝居かな? 一瞬私を突き落としておいてからの持ち上げて喜びを倍増させるという手の込んだ…」
興奮が止まらず小躍りしているハンジの耳に、信じられない追加の言葉が飛びこんできた。
「ただしモブリットを第一分隊に引き渡すことが条件だ。要するに交換だな」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」
団長室にハンジの絶叫が響く。
「何を考えてるんだ、エルヴィン! そんなの駄目に決まってるじゃないか!」