第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「うん。うらやましいよ、私も地下街で自由自在に飛びまわるリヴァイをこの目で見たかった」
まるで今目の前を若かりしころのリヴァイが飛んでいるかのように、ハンジは団長室の窓の外に目をやった。
ミケもそれを追うように窓からのぞく空に想いを馳せて。
「抜群に速くて…、天性のセンスを感じさせる飛び方だったな。捕まえてみれば独学だと言うし…」
青い空から、目の前に静かに座っているエルヴィンの碧い瞳に視線を移す。
「お前が噂のゴロツキを狩りに行くと言ったときには半信半疑だったんだ。訓練していない不良なんかが役に立つ訳ないってな…」
エルヴィンも当時を回想しているのか、その顔はおだやかだ。
「だが取り越し苦労だっただろう?」
「あぁ、そうだな…。あの薄汚い地下街を鳥のように自由に飛ぶリヴァイを見た瞬間に、確信した。こいつはたった一人でも、巨人を千体倒せるやつだと」
思い出を共有しているエルヴィンとミケに、ハンジが嫉妬する。
「いいなぁ! 私もその場に居合わせたかったよ」
あまりにもうらやましがるハンジに対してミケが。
「出会うのが少し遅いだけで、同じじゃないか」
「そうなんだけどさ、私のリヴァイの第一印象は “唖然” だったよ。エルヴィンたちが地下街からスカウトしてきたと噂の三人組が入団したと思ったら…」
ハンジの話でエルヴィン、ミケもありありとつい昨日のことのように思い浮かんだ情景。
「全員、注目! 今日から我々とともに戦う三人を紹介する。お前たち、皆に挨拶しろ!」
「……リヴァイだ」
ハンジは笑い出した。
「あのときは本当に思ったよ、“なんだこのチビは” ってね! これが悪名高い地下街のゴロツキ? エルヴィンたちがわざわざ連れてきたのがこれ?ってね。そしてリヴァイたちの面倒を見ろと言われたときのフラゴンの顔ったら!」
フラゴンの名を出したハンジは、笑っていたのに一瞬しんみりとした顔をする。
リヴァイとファーラン、イザベルの地下街のゴロツキ三人組を自身の分隊に所属させられる羽目になったフラゴンは、その後おこなわれた壁外調査で命を落としたのだ。激しい雨と荒れ狂う風の中で、ファーランとイザベルとともに。