第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「脅迫なんかじゃなくて、ちょっとお願いするだけだよ?」
「どうやって」
「そうだな、たとえば… “リヴァイ、マヤが可愛くてたまらないからリヴァイ班に引き抜こうとしたことをナナバに言ってもいいかな? なんか無性に聞きたがっているんだよね、ナナバは。言ってもいいよね? 言っちゃいそうなんだよ、私は。あっ、でもね… 今度リヴァイが私の実験にすこ~しだけ協力してくれる気があるんだったら言わないですむかもしれない” ……な~んてどうかな?」
「フン」
「それを脅迫というんだ」
ミケには鼻を鳴らされ、エルヴィンからもあきれたような声が飛ぶ。
「え~、そうかな? 互いにウィンウィンの取引だとしか思えないけどなぁ! それもナナバのところをニファとかゲルガーに変えて何回も使いまわせる非常に美味しい取引」
自分に都合の良い解釈をしていたハンジだったが、ふっとあることに思い当たり首をかしげた。
「ところでリヴァイはなんでプレゼンを投げ出して行っちゃったんだろう? マヤとつきあい始めたことはわかっていることだし、急に恥ずかしがるのも変な話だね」
「……それは」
ミケがいち早く返す。
「俺には守れるのかと堂々と言っていたが、プレゼンという形であらたまって団長であるエルヴィンに申請となれば、急に羞恥が生まれたんだろう」
この意見にエルヴィンも同意した。
「そんなところだろう。ああ見えてリヴァイは根は真面目だからな。ミケにはなんの気なしに譲れとは言えても、いざ兵士長として私に正式に申請することは耐えられなかったのではないかな」
「地下街出身のゴロツキだが意外と真面目で…、そして」
ミケは初めてリヴァイと地下街で対面したときのことを、そしてリヴァイが初めて参加した壁外調査で仲間を失い、エルヴィンに屈したときのことを思い出して目を細めた。
「俺はあいつは素直だと…、昔から想っている」
「あぁ、そうだね。リヴァイは確かにまっすぐで可愛いところがあるよ!」
ハンジも大きくうなずいた。
「ミケ、今リヴァイをエルヴィンと狩りに行ったときのことを思い出していただろう?」
「あぁ、よくわかったな」
「リヴァイのことを話すときはよく今の顔をしているからね。懐かしんで、愛おしむような顔」
「そうか」