第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「やだなぁ! 捕獲班の話はまだまだ序の口だよ。ちゃんと最後まで聞いてよ! 捕獲班にマヤが必要だということは、日常の訓練から我が第二分隊、いや私のそばに置くことが必須なんだ。いくらマヤが優秀だからといって、やはり普段から私のそばにいて一心同体以心伝心あうんの呼吸になるくらいでないと務まらないからね! だからマヤには第二分隊に来てもらって、私の側近として過ごしてもらう。それこそが巨人捕獲班のエキスパートへの早道だ!」
「あぁ、そうかよ…」
“勝手にしろ” と言ったのに、つい口を挟んでしまったことに激しく後悔しながらリヴァイは力なくつぶやいた。
「エルヴィン、巨人の生け捕りこそが巨人完全討伐への近道だと私は信じている。なぜ我々は調査兵になったか。それは憎き巨人を一掃し壁のない人類の自由を手中にするためだ。初めて巨人を見たときの衝撃を憶えているかい?」
と、ハンジは10分以上も巨人を語りつづけてようやく話を締めた。
「……という訳で、巨人捕獲にはマヤを私の手元に置くことが必要なんだ!」
こぶしを握りしめて力強く訴えてきたハンジを思慮深い碧き瞳で見つめていたエルヴィンは、静かに返した。
「ハンジの言い分はよくわかった。次は…、リヴァイだ」
そう言いながらリヴァイに向けた顔は、かすかだが面白がっているように見える。
「マヤを欲しがる理由を聞かせてもらおうか」
「……理由は…」
リヴァイの薄いくちびるは、そのつづきを紡ぐことなく閉じた。
“マヤを確実に守るため” だと言いたいが、今この団長室の状況はどうだ。
エルヴィンは一見静かに見えて、その聡い瞳の奥では完全に面白がっている。
ミケはいつものごとくその背の高い大きな体の存在感を消すかのように部屋の隅に立っているが、実は全身を耳にして次の言葉を待ち構えている。
そしてハンジは眼鏡の奥の瞳を爛々と輝かせて “理由は…、なんだい? さぁ早く!” と身を乗り出している。
三人がリヴァイの言葉を今か今かと待っている状況で、ハンジのように人類の未来のためにマヤが必要だという訳でもなく、ただ単に自分がマヤを守りたいから、マヤが心配だからなんて究極に個人的な理由を言えるはずもなく。
だからリヴァイは黙ってしまった。