第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「ミケチ?」
いち早くエルヴィンが反応した。
「この背高のっぽがとんでもない “けちん坊” だからさ、ミケチって呼んでやるんだ」
「はは、それはいい」
愉快そうに笑っているエルヴィンとは対照的にリヴァイは、“そんなことはどうでもいい” とばかりに顔をしかめている。
「リヴァイ、ミケはミケチだから単にマヤをくれと言っても埒があかないよ」
ハンジはここで言葉を止めた。眼鏡の奥がきらりと光る。
「だからだ。ちょうどマヤを欲しい私とリヴァイが揃ったところで、エルヴィンに正式に願い出ようじゃないか。正式な団長命令だったらミケチも拒めないだろうからね」
「……なるほど」
突然現れたハンジの存在は気に食わないが、言っていることはいつも一理ある。仕方なくリヴァイはうなずいて、先をうながした。
「それで?」
「今から君と私でプレゼンをおこなう!」
「……は?」
「プレゼンだよ、プレゼン! プレゼンテーション! 知らないのかい? いいかい? プレゼンテーションっていうのは…」
「プレゼンテーションくらいわかる」
ムッとした低い声。
「なら話は早いね! 早速エルヴィンに訴えようではないか。マヤを自分の班に迎え入れたい理由を具体的に説明する。マヤを迎えたら、どれだけメリットがあるかを、いやメリットだけを強調することは良いプレゼンとは言えないね、デメリットもきちんと話して、総合的に判断してもらわないと…」
ぺらぺらとハンジの口が止まらない。
「……私からいくよ? いいかい?」
「勝手にしろ」
腕を組んで相変わらず不機嫌そうにしているリヴァイをちらりと見てから、ハンジは真面目な顔をしてエルヴィンの正面に立った。
「エルヴィン、マヤの我が第二分隊への編入を認めてくれ。前回の壁外調査で、巨人の捕獲班に臨時で編入したマヤだが、不幸な事故には遭ったものの、その才能は捕獲班のレギュラーメンバーにも引けを取らないものだったんだ。素晴らしい判断力、戦闘中でも巨人の動きを冷静に観察して即座に行動できる実行力、そして何よりトップクラスの立体機動の俊敏さ。捕獲班にはなくてならない存在だ!」
思わずリヴァイは横槍を入れてしまった。
「……じゃあ捕獲班の編成に入れるだけでいいんじゃねぇか?」