第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
次の日から、8月20日におこなわれる壁外調査に向けての準備や訓練が始まった。
日々の訓練に加えて、壁外調査での長距離索敵陣形における陣形の確認や信煙弾の点検。予期しない場面で、たとえば奇行種に遭遇したときに、いかに素早く的確に正確な判断を下して動けるか。通常時は分隊長、班長と上からの指示を仰ぐ場面でも、壁外ではその命令を下す人間が瞬時に巨人に食われてしまう由々しき事態も多々あるため、そういった指示系統が崩れたケースでいかに混乱せずに対応できるか。
壁外調査の日程が決定し、その決行日までつづく壁外調査直前の厳しい特別メニューの訓練を粛々とおこなうことによって、調査兵の気持ちも “いよいよだ” と引き締まっていく。
だからか。
午前の訓練の直前には、マヤに群がってリヴァイとの交際のあれこれを、タゾロにたしなめられながらも興味津々で質問していた新兵三人組も、昼食時にはすっかり調査兵の顔に戻っていた。
「マヤさん、これからもこの第一班で俺たちと一緒に戦ってくださいよ」
ジョニーは朝一番は、にやにやとふざけていてばかりだったのに、今はシャキッと精悍な顔立ちになっているくらいだ。
「兵長の恋人になったからってリヴァイ班に編入とかなしですよ?」
つづくダニエルは少しリヴァイに絡めてくる。
「うん、大丈夫よ。私はリヴァイ班に入れるほどすごくないから」
「でもマヤさんは立体機動のスピードはピカイチだし、絶対ないってことはねぇんじゃないかな? やっぱり兵長も手元に置いておきたいんじゃ…?」
「ジョニー」
マヤは真剣な顔をして、手にしていたフォークをかちゃりと皿に置いた。
「……兵長はそんなことは考えないと思うわ」
「そうだぞ! 兵長が私情なんか挟む訳ないだろうが!」
タゾロにも怒られて、せっかく先ほどまで精悍な顔立ちだったジョニーは、しゅんとうなだれてしまった。