第13章 さやかな月の夜に
その日の夕暮れ、マヤは自室で私服に着替え待機していた。
午後からの訓練の第一部の基礎体力鍛錬を終えたあと、通常ならば第二部の時間にミケ分隊長の執務の補佐をするところをこの日は、幹部の定例会議があるのでマヤはひとりで立体機動装置の整備をした。
ミケに会議が終わり次第迎えに行くから、着替えて自室で待機するようにと言いつけられていた。
……会議のあとの飲み会って、どんな格好をしたらいいのかしら?
初めて参加する幹部との飲み会に少々マヤは緊張気味だ。
変に気負った格好も恥ずかしいので、普段の調整日どおりの白いシンプルなブラウスに、紺色の丈の長いスカートを選んだ。
第二部の基本の終業時間である18時はとっくに過ぎた。じきに19時になろうとしている。
……まだかな? 会議が長引いてるのかな?
マヤは時間つぶしに手にしている “恋と嘘の成れの果て” に目を落とすが、時が過ぎていくにつれて落ち着かなくなってきて、内容が頭に入ってこない。
マヤがそわそわと落ち着かないころ、会議は終わろうとしていた。
「……では、いつもの店に現地集合で頼む」
エルヴィンの締めの言葉で、わらわらと皆が散る。
「ハンジ」
モブリットを引き連れて会議室を出ようとしている彼女を、ミケが呼び止めた。
「なんだい?」
ミケは少し屈んでハンジの耳元に口を寄せる。
「うんうん。ふむふむ…」
ミケの口髭がモゾモゾと、そしてハンジの耳がピクピクと動く真正面を、小柄な影が通り過ぎた。
「ほぉ~! あははは! うん、オッケー!」
部屋を出ていく小さな背中を追うハンジの目は、キラリと光っている。
「では… よろしく頼む」
そう言い残し、ミケは部屋をあとにした。
「ぐふふふふふ…」
一人で不気味に笑うハンジに、モブリットが心配そうな声を出した。
「分隊長…?」
「モブリット~! 今日の飲み会は… 面白くなるよぉぉぉぉ!」
「はぁ…」
「さぁ、行こうか!」
困惑顔のモブリットを引きずって、ハンジは意気揚々と会議室を飛び出した。